愛すと殺すと


すると、俺を強い眼差しで見つめて。



「陽!」


「ん?」





「逃げるぞ!」





歓喜に満ちた目で、そう言ったのだ。


一瞬、何をいってるのかわからなかった。



「え?鳳…」



聞き返そうとする俺を無視して、手首を捕み家内に引っ張られる。


「いいから!今しかチャンスはないんだ!


千晶も、ついてきてくれ!」




家の中には、カバンというかトートバックが3つあった。



1つしか物は入ってなく、2つは空っぽ。


見覚えのある蒲公英のマークが入っていた。


ここも昔は正常で、たくさんの子供で賑わう孤児院だったらしい。


トレードマークの蒲公英の入ったバックを渡されたのは、ここに来てすぐのことだった。


いわゆる制服みたいなもので、一体感やおそろい意識を持たせるために配ったらしい。


昔の話だけど、まだ倉庫にいくつかあるのを知っている。


「この中に入れられるだけの荷物を詰めろ。

僕はもう入れたから」


さすが鳳紀、用意が早い。


そう思って、気づいた。



鳳紀はまさか、ずっと前から計画してたんじゃないだろうか。



おそらく、一ヶ月前から。



穢れているだろう、と言った鳳紀が脳裏に浮かんだ。



< 84 / 245 >

この作品をシェア

pagetop