愛すと殺すと
すると、俺を強い眼差しで見つめて。
「陽!」
「ん?」
「逃げるぞ!」
歓喜に満ちた目で、そう言ったのだ。
一瞬、何をいってるのかわからなかった。
「え?鳳…」
聞き返そうとする俺を無視して、手首を捕み家内に引っ張られる。
「いいから!今しかチャンスはないんだ!
千晶も、ついてきてくれ!」
家の中には、カバンというかトートバックが3つあった。
1つしか物は入ってなく、2つは空っぽ。
見覚えのある蒲公英のマークが入っていた。
ここも昔は正常で、たくさんの子供で賑わう孤児院だったらしい。
トレードマークの蒲公英の入ったバックを渡されたのは、ここに来てすぐのことだった。
いわゆる制服みたいなもので、一体感やおそろい意識を持たせるために配ったらしい。
昔の話だけど、まだ倉庫にいくつかあるのを知っている。
「この中に入れられるだけの荷物を詰めろ。
僕はもう入れたから」
さすが鳳紀、用意が早い。
そう思って、気づいた。
鳳紀はまさか、ずっと前から計画してたんじゃないだろうか。
おそらく、一ヶ月前から。
穢れているだろう、と言った鳳紀が脳裏に浮かんだ。