愛すと殺すと
着替えと、市川から貰っていたわずかな小遣いを貯めたもの。
あと、両親と撮ったボロボロの写真と、母子手帳。
それだけしか自分の荷物がないのに驚いた。
久しぶりに手にした母子手帳を開いてみる。
“芳川陽紀”
踏み締めるように書かれた名前に、少しだけ笑った。
几帳面な人だったのか、体重や生年月日、生まれたあとの日記欄みたいなものもびっしりと埋められている。
もちろん、母子手帳もボロボロだ。
大事にされていたのだ、と見るたびに思わされ、暖かくなる。
いわば、お守り。
大事にそれを仕舞って、顔をあげた。
ここを出る。
それは小さい頃は毎日考えて、無理だと決めつけて、忘れていたものだった。
たぶん、鳳紀が連れ出してくれなかったら実行には移らなかっただろう。
感謝しなくちゃ、と心の隅で思った。