愛すと殺すと
「用意できたよ、お兄ちゃん」
「よし、出ようか」
千晶の一言で家を出る。
「……」
毎朝学校に向かうたびに家を出て、帰ってきて。
繰り返してくぐってきたドア。
これで最後になるんだ。
ガチャりと鳳紀が鍵をしめる。
やけに音が大きく感じた。
「まずは、僕の親戚を訪ねたいと思う」
「親戚?いたのそんなの?」
千晶が訊ねる。
「この間知ったんだ」
理由もなく出発した訳じゃないんだ、と少しだけ感心した。
バスに揺られながら、「どこに向かうの?」と問う。
「隣の県」
「…となり?」
そんなに遠くはない。
が、だからこそ。
そんなに近くに親戚がいながら、なんで引き取られなかったのかが不思議だ。
孤児院はいわば最終手段の場所だ。
親戚もなにも、頼る人間がいない場合にのみ送られる。
親戚などがいれば、自動的にそこにいくはずなのだが。
「訳ありだ」