愛すと殺すと
「鳳紀さん?千晶さん?」
遠くから声が聞こえた。
「…あ!」
声をあげた鳳紀の視線をたどると、道路をひとつはさんだ向こう側に、初老の叔母さんがいる。
たぶんその人が菅原さんか。
「あの人?」
「たぶん」
横断歩道を見つけ、青になるのをもどかしく感じながら待つ。
青に交代した信号を渡ろうと足を踏み出し――気づいた。
「きゃぁあああっ」
「うわぁっ」
一台の、暴走トラック。
道をくねくねと安定性を放棄しながらラリったように走り続ける。
それは青だろうと突進してきて――
「きゃっ」
俺と千晶は第三者によってセットで突き飛ばされ、歩道に投げ出された。
そして、そこからは見事にスローモーションだった。
あんなに速かったトラックが、やけにゆっくりと少年の体を目指す。
車体によって歪む体の線。
あっけなくトラックに潰されていく、1つの命。
まばたき一つしたら見なくてすむ光景を、残酷な神様にゆっくりと綿で首をしめていくように見せつけられた。
固まる体は息をするのも忘れていて。
無力な俺らは、ただただ見せつけられるしか道はなかった。