愛すと殺すと
現実に引き戻されたのは、一滴の水滴によってだった。
ピッ、と足に血飛沫がかかったのだ。
そして、それと同時に意識は戻り。
今度は現実を見せつけられた。
「いやぁあああああ」
「子供がひかれたぞぉ!」
誰かの悲鳴と、誰かの怒声。
ゆっくりとまばたきをすると、光景が頭の中に入ってきた。
破れたTシャツから覗く不自然についた痣は、生前のものだと推測がつく。
曲がってはいけない方向に飛び出した脚や腕は、トラックの圧力によるものだった。
そのからだを彩るは、血の赤。
何回見てもその人物は、いつも一緒にいた兄で。
「鳳…紀…」
ぐちゃぐちゃになった鳳紀に声をかける。
やっとでた声は、震えていて言葉になっていなかった。
息を吸うと、バックからぶちまかれた服やらなんやらが放ったラベンダーの香りと、錆びた鉄のように鼻をつく血の臭いがした。
それが体に染み渡るのがどうしようもなく怖くて。
でも。
「あぁ……よぉ…か…」
微かに聞こえたその声に、なにもかも投げ出して走った。
「鳳紀!鳳紀鳳紀鳳紀!」
狂ったように叫ぶ。
「もう少し…だったの…になあ…」
はは、と自嘲するように笑う。
顔は血で染まっていて、ぐちゃぐちゃで。
これが鳳紀だったのが、悲しかった。