LOVEFATE~理由~

「あ、じゃ、僕はそろそろ帰るんで」



阿部さんはリカちゃん人形を連れて帰るように鞄にしまうと、

デスクから立ち上がる



私が最後でもそうやってあっさりと、
阿部さんは事務所を出て行った



きっと、気遣って私と社長を二人にしてくれたのだと思う



それは、勿論、変な意味ではなく




私が最後は社長と二人で話したかったのが、

阿部さんもなんとなく分かったのだろう




「社長、本当にありがとうございました。

社長がああやって言ってくれなかったら、
私は俊ちゃんにすぐ会える場所に行けなかったから」




“――お前の好きな奴は、
お前よりもずっと怖くて不安なんだよ!
誰よりも、お前に会いたいはずだ。

最後の一秒だけも可能性があるなら、お前に会いたいと思う。

だから、こんな場所に居ないで、
一秒でも早くその男に会いに行ける場所に居ろ――”




「会えて、良かったな」


そう言った社長は
私に優しく微笑むけど



誰かを思い出しているのか、哀しく見える




社長にも、ずっと会いたくて、
会えない人が居るのだと思う




その辺りは、きっと教えてくれないだろうな





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