刹那の笑顔
しばらくして兄に呼ばれ、よく分からず知らない車に乗り込んで、外を眺めていました。
お母さんやお父さん、人が亡くなっても…この世の中は…世界は…地球は…
止まることなく動いている。
また、涙が溢れそうになるのを必死に堪えていると、兄にまた呼ばれ車を降り、病院の中に連れて行かれました。
そして、兄が白い扉を指差すのです。
訳のわからない俺は扉を開けました。
開けた扉の奥、部屋の中はとても重たい空気が漂い、身体中を震え上がらせました。
そして兄に促され白い部屋に、震える足で入ると
白いベッドが2つ並んでいました。
そこには、白い布が人の顔に乗せられていました。
布を取ると、そこにはピクリとも動かず固く目を閉じた冷たいお母さんとお父さんが並んでいるんです。
「お母…さん?
ねぇ、お父…さん?」
俺は2人の身体を揺らしました。
時々寝坊するお母さんとお父さんを起こす時、こう揺らしてたんです。
そうすると、2人は同時にパッチリ目を開けて
「「嘘!今何時!?」」
と叫ぶんです。
それを見るのが楽しくて…。
休日だと伝えると、2人は肩をなでおろし、お母さんは俺を抱きしめ、お父さんは俺を撫でるんです。
「もーう、遼誠ったら〜、びっくりさせないでよ〜?」
「起こしてくれてありがとうな〜!」
「おはよっ!お母さん!お父さん!」
「「おはよう」」
いつもならこういう会話をしてるんです。
なのに…2人は同時にパチリと目を開けないんです。
同時どころか、1ミリたりとも動かないんです。
揺らしても揺らしても…起きないんです。
抱きしめてくれない…頭を撫でてくれない。
〝ありがとう〟も〝おはよう〟も聞けない!!
前みたいに、暖かい手で握っても、握り返しては、くれないっ!
あの時のように、笑ってはくれないっ!
しかってくれない!
ケンカも出来ない!
あの時のような、穏やかな生活はもう送れない!
美味しかったお母さんの料理…。
楽しかったお父さんとのサッカーや野球…。
もう2度と出来ない。
笑ってくれる人は、もういない。
俺は全ての思い出が巡り巡って、また涙が止まらなかった。
でも、兄は泣かなかったんです。
虚ろな目でボーッと2人を眺めながら、
俺の頭をそっと撫でるだけ…」
刹華のよりも残酷な遼誠の過去を聞いた刹那、お父様、お母様は絶句していた。