僕らの恋に永遠の名を。
「…っ?」
テーブルの上に置いていた手に触れる先輩の手。
ちょっと冷たい。
『あず』
「えっ?」
思わず手を引っ込める。
誰かの声が…、頭のなかに響いた。
なんか、馴染みのある落ち着いた声。
ゆっくりと目を開くと、先輩は見計らったように言った。
「俺のなかに、柊也ってやつの魂がいるんだ。俺と触れた人にも、その声は聞こえるらしい」
「そんなこと…って…」
「だろうなぁ…。俺だって信じらんねぇよ」
でも…、もしも先輩のなかに柊ちゃんがいるなら、さっきの声は柊ちゃんなの?
どういう原理でそんなことが起きるんだろう…。
「じゃあ、先輩、その話がしたいんですけど」
「柊也と?」
「はい」
「ん」
差し出された手の上に恐る恐る自分の手のひらを重ねる。
「ど…すればいいですか?」
「心の中に語りかけるように」
目を閉じて、柊ちゃんに届くように。
『柊ちゃん…?』
『あず、久し振り。この人の言うことはホントだよ。
おかげでまた話ができるね』
落ち着いた声、さっきと一緒。
間違いなく柊ちゃんだ。
『なんか…声が大人っぽいね』
幽霊でも成長するのかな。
『そうかな。僕も僕のことは見えないからさ。成長したとか、わからないんだ』
『そうなんだ…』
「もういいか?」
はっ、と先輩の声で目を開ける。
そして、ゆっくりと手を離した。
「はい、ありがとうございました…」
「信じてくれたか?」
「はい…。びっくりしましたけど…」
先輩は私の言葉を聞いて、ほっとしたような顔をした。
今までにも、こんな体験をしてきたのかもしれない。
「昨日、学校で俺が変だったのも、さっきのも、こいつのせいなんだよ」
「あ…」
フラッシュバックしてくる記憶。
そういうことだったのか。
そう言われると納得がいく。
ん…?じゃあ、あれも…?
「あの、キスしようと…してきたのは…?」
「?」
なんだそれ、という顔をする先輩。
「あ、あれか。あれは本気の冗談だ」
真顔でそんなことを言うから、思わず吹き出してしまった。
「なに笑ってんだ、おいっ」
「へへ…」
今、すごく嬉しい気持ちで溢れてる。
だから、こんなに顔の筋肉緩いんだ。
柊ちゃんと、もう一度話ができてすごく嬉しい。