ただあなたに逢いたくて



「ただいまー」

はっ!と我に返った。

泉の声だ。

「あ、おかえり泉。」

「和海。帰ってきたのか。」

俺は先生にもらった薬を飲みながら頷いた。

長い沈黙が流れた。

「母さんたちは?」

泉はこの沈黙が嫌だったのだろう。

「買い物。」

「そうか。」

また沈黙が流れた。

泉はダイニングのイスに座りぼんやりしていた。

久しぶりに泉をみたな。

前より肌が小麦色に焼けてる。

俺なんてずっと病院にいたから真っ白。

同じ顔なのに泉は健康的な身体をしている。

今は夏休みか……

「焼けたね。」

俺がそう言うと泉は困った顔をしながら

「そうか?」

と言って自分の腕をみた。

「泉はいいな。外で遊べて。俺なんか…。」

俺なんか。

「和海が元気になったら一緒に野球しようぜ!」

泉。

おまえずるいよ。

なんで無理して笑ってんだよ

勇気づけようとしてんの丸見え

いい奴だからこそ泉に腹が立つ自分がいる。

そんな自分は最低だな。

「元気になったら…な…。」

俺ってこの先元気になんてなれんのかな?


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