ハニーと吸血鬼(ヴァンパイア)
第6話
アズナヴール家のお姉さまたちに賑やかな歓迎を受けた後、シルヴィ様のダイニングに残された私は彼に抱きしめられたまま、宣言通りやたらと髪を手櫛で梳かれたり、用意されたミックスベリーマカロンをご丁寧に口元まで持って行かれながら「あーん」付きで食べさせられたり…ってこれじゃあ何だか餌付けみたいに可愛がられており、飼い主に甘やかされている猫のような気分を味わっていたりする。
あの、出来れば早めに着替えたいのだけれど。
まだ連れ去られた時のままだから、薄っぺらい夜着しか身につけていない。
だからといって別にシルヴィ様の手が不埒な動きをするとか、楽しげにイタズラを仕掛けてくるとか、そんな素振りは全くない。
それに彼の口調を聞き続けているとだんだん慣れてきて、素晴らしく面倒見のいい「お姉さま」と一緒にいるような気がしてくるからつい心地よく甘やかされることを受け入れちゃうのよね。
流されているというか、彼の術中にまんまとはまっているというか、なんというか。
「んっ」
不意に口移しで食べさせられた上品な薄紫色のマカロンから、甘味と酸味がほどよく溶け合った香りが口中に広がる。
驚きながら彼を見上げれば、ちょっとだけ困ったように微笑んでから眉尻を下げていた。
「ハニーちゃん、何か考え事してる?」
「え?」
「途中から無反応なんだもの。何考えてるのかなー、と思って」
そんな疑問は私こそ疑問だ。
だってシルヴィ様には私の考えていることが筒抜けのはずなのに、そんな風に問いかけてくるなんて。と思いつつわずかに首をかしげると、彼は「ああ」と納得したように何かを察した。
「言うの忘れてたわ。今の私にアナタの考えは読めないの」
「どうして?」
「ハニーちゃんから貰った分の魔力ね、姉たちに精気として吸い取られちゃったから。今のアタシは本来自分が持っている分の魔力しか持っていないの。アナタから貰った力が体内に宿っている間はアナタの考えが流れ込んでくるのよ。ってことで…吸わせてくれる?」
にっこり笑って可愛らしく「コテン」と首まで傾げて、美形公爵様がお願いしてくる。
おかしい、おかしいってば!
いくら口調が「お姉さま」でも、外見は泣く子も黙る超絶色男な紳士。
無駄な贅肉など一切ない、鋼のように強かな筋肉が体を覆うストイックな体型はどんな貴族服を着ていたって、隠しきれるものではない。
上着を脱いでシャツだけになった姿なら尚更、腕の動きに合わせて薄い布地が張り、それと同時に生地は彼の腕にぴったりと吸い付いているようで、腕の筋肉や骨格まではっきり浮き立たせているのだから。
長い手脚とスラリと伸びて骨ばった指、大きな手のひらは全てをしっかり受け止めて、何も零すことのないような力強さを宿し、薄紫色の涼しげな瞳は一度相手を真っ直ぐ見据えたら、どんな人間をも虜にしてしまう魅力に溢れている。
そんな誰も彼もを魅了してしまうほど別格な容姿を持った男性が、愛らしさを狙った「おねだり」をして見せても、普通はミミズが全身を這いまわるほどの違和感とむず痒さしか感じないはずなのに!!
なのに!
どうして逆らえないの、私!
素直に後ろ髪を背中に流して首筋を晒してあげちゃうなんて!!
挙句
「ちょっとだけなら」
なーんて、どの口が言うんだ、この口か!!
…と、自分に突っ込むなんて滑稽だわー。
小さなため息と共に視線を上空で泳がせると、ふふ、という彼の吐息が耳元で聞こえた。
「ひゃうっ」
思わず全身に走るくすぐったさを感じて肩を竦めれば、シルヴィ様は晒された私の首筋に一瞬の口付けを落としただけで牙を立てることなく、無意識に硬く握っていた私の左手をとった。
あれ?
視線で問いかければ、彼の温かな視線に見つめられる。
「こっちでいいわ」
「こっち?」
「指。この愛らしい丸い指先からほんの少しだけちょうだい。意識がある時にいきなり首筋は刺激が強すぎるから」
「怖くないわ」
「どうしても、って言うなら喜んで首筋をガブッといくけど、そうしたらきっとこの場でハニーちゃん大洪水になっちゃうかも」
「えっ」
洪水?大洪水?
それってまさか血だまりが出来上がっちゃうくらい大量出血しちゃうかも、ってこと!?
「いいいいいいい、やいやいやいや、それはちょっと待っ」
ぎくしゃくぎくしゃくと首を左右に振り続けながら身を引こうと背中を逸らすけれど、そんな抵抗はムダもいいところ。
シルヴィ様にがっちりホールドされているおかげで、椅子から転げ落ちる心配はないけれど、逃げられもしない。
「ふふふ」
心底楽しげな彼の笑顔が徐々に迫り来る。
ね、ウソ、ウソでしょ!?
そうしてキランと彼の瞳が光った、気がした瞬間。
ぷちゅ
「ふぇ?」
左の人差し指にチクリとした刺激が一瞬と、まるで指先を舐められているかのような、長い長いキス…じゃなくて。
微かに何かを吸い上げられている感覚がある。
覚悟してぎゅっと硬く閉じた瞼を恐る恐る開けば、片方の牙だけを指先に突き刺して音もなく吸血するシルヴィ様の姿があった。
伏し目がちの彼のゆるくカーブしたまつげに思わず視線が行く。
長くて、きれいに揃った黒いまつげ。
見つめていると今度はその下から色を濃くした紫の瞳が私を上目遣いで見つめ返してくる。
うっ。
う、上目遣いは女性の専売特許じゃなかったの!?
視線を逸らすこともできずに見つめあったまま、私の頬は急激に熱を帯び始めた。
ちょっともうそんなに見ないで、お願いだから…恥ずかしすぎるわ、こんなの。
どうして?
心臓が飛び跳ねてからずっと鼓動が早鐘を打ち続けてる。
耳の奥にまで響いてくるそれを聞いていると、もう彼に伝わってしまったんじゃないかって気が気じゃない。
だってほら、にんまりと、得意げな笑みがそこにあるもの。
ヤダ、どうしてこんな…こんなに、ドキドキするの…?
指先が熱い。頬が熱い。頭の中がぼうっとしてる。
訳が分からないまま目頭まで熱くなってきた。
変よ、体中が熱い。
「シルヴィ様、も、やめ…て…」
きっとこれは生理的な涙。
感情が反応しているわけじゃない。
でも止まらない。
堪えきれない。
お願い、それ以上しないで。
牙を…
「抜いて…」
「!?」
突如大きく目を見開いた彼が、すっと牙を抜いてくれた。
そして小さく呻いてから
「ッ」
言葉にならない何かを飲み込んで、勢いよくぐっと私を抱きしめた。
薄いシャツ越しに感じる彼の体温。
触れた頬に伝わる彼の鼓動。
どくどく、どくどくって…私の鼓動と次第に重なり合って、途中からどちらの音か分からなくなった。
だけど、心地いい。
じんわり広がっていく彼の温もりと、肌から鼓膜を通して体中に共鳴し合う鼓動が私の熱を上げているようで、羞恥心でいっぱいになる。
それでも力強い彼の両腕を解く気にはなれなくて、じっと大人しく抱擁を受け入れた。
シルヴィ様に、今度は聞こえちゃう。
こんなに動揺していることも、シルヴィ様の腕に安心していることも、体中をめぐる熱に浮かされていることも。
ううん、それだけじゃない。
羞恥心だけじゃなくて、もっと何か別の、でもよく分からない内蔵を強く抉られるような、そんな感覚。
真っ白になって後頭部がふわっとするような、不思議な感覚が私を支配している。
「シルヴィ、様」
力の抜けた声で呼ぶと、彼は一層抱きしめる腕に力を込めた。
「ごめんなさい、アタシ、危ないわ」
「え?」
切羽詰った声が耳元で悔しげに言う。
危ないって何のこと?
心の中で問い返せば、彼は私を解放して強く両肩を掴みながら、見たこともないほど真剣な眼差しで私を見つめた。
宵闇に近い、深い紫の瞳はまるで宝石のように煌めいている。
「いい?よく覚えておいて。アナタにとって今のアタシはまだ危険人物よ。セレ姉さまの心配も杞憂じゃないってことね」
「でも」
「ダメ、油断しないで。アナタの意識がある時に吸血するとこうなるんだ、ってよく分かった。昨夜はハニーちゃんの意識が曖昧だったから上手くいったようなもんだったんだわ」
「どういうこと?」
「ハニーちゃんに意識があると、吸血しながら感情も思考も感覚も全部伝わってくるの。その全てにアタシの全部が反応しちゃう。夢中で血を吸っちゃうのよ。今だってそう。ほんの少しで良かったのに、アナタから伝わってくるものが心地よくて、その血があまりにも芳しくて味わい深くて、本能に支配されかけた」
やるせなさと悔しさ、情けなさに後悔まで混ぜ合わせたようなシルヴィ様は、眉間に深いシワを刻んで目を伏せて頭を振る。
「こんなんじゃ騎士(ナイト)失格。決めた、アタシ決めたわ!」
「何を?」
「アナタから血をもらうのは、ほんっとうに必要な時だけにする!それ以外は自分で何とかするわよ、やってみせるわ。ハニーちゃんにもちょっと協力してもらうけど」
「どうするの?」
「大丈夫!多分血液ほどじゃないけど、他の体液だって効果があるはずだもの」
「ん?」
「だーかーら!いっぱいキスしていっぱい唾液もらえばいいのよ。そうしたらハニーちゃんに負担はかからないでしょ?」
どうだ!って得意げにおっしゃいますが、それはどうだろう。
精神的ダメージが大きい気がします。
「そんなもの慣れればすぐに呼吸と同じレベルで気にならなくなるわよ。大丈夫。アタシ、口は器用なの安心して」
いや、むしろ不安でいっぱいなんですが!
「あらー?そんなことを言うのはどのお口かしら?随分可愛い色してるわね、食べちゃいたい。ってか食べちゃう」
「あ、うぇっ?」
「次は色っぽい吐息がいいわね」
なんて妖艶に笑った彼は、その後酸欠で倒れるまで私の唇を貪ったとか、どうだとか。
続く
あの、出来れば早めに着替えたいのだけれど。
まだ連れ去られた時のままだから、薄っぺらい夜着しか身につけていない。
だからといって別にシルヴィ様の手が不埒な動きをするとか、楽しげにイタズラを仕掛けてくるとか、そんな素振りは全くない。
それに彼の口調を聞き続けているとだんだん慣れてきて、素晴らしく面倒見のいい「お姉さま」と一緒にいるような気がしてくるからつい心地よく甘やかされることを受け入れちゃうのよね。
流されているというか、彼の術中にまんまとはまっているというか、なんというか。
「んっ」
不意に口移しで食べさせられた上品な薄紫色のマカロンから、甘味と酸味がほどよく溶け合った香りが口中に広がる。
驚きながら彼を見上げれば、ちょっとだけ困ったように微笑んでから眉尻を下げていた。
「ハニーちゃん、何か考え事してる?」
「え?」
「途中から無反応なんだもの。何考えてるのかなー、と思って」
そんな疑問は私こそ疑問だ。
だってシルヴィ様には私の考えていることが筒抜けのはずなのに、そんな風に問いかけてくるなんて。と思いつつわずかに首をかしげると、彼は「ああ」と納得したように何かを察した。
「言うの忘れてたわ。今の私にアナタの考えは読めないの」
「どうして?」
「ハニーちゃんから貰った分の魔力ね、姉たちに精気として吸い取られちゃったから。今のアタシは本来自分が持っている分の魔力しか持っていないの。アナタから貰った力が体内に宿っている間はアナタの考えが流れ込んでくるのよ。ってことで…吸わせてくれる?」
にっこり笑って可愛らしく「コテン」と首まで傾げて、美形公爵様がお願いしてくる。
おかしい、おかしいってば!
いくら口調が「お姉さま」でも、外見は泣く子も黙る超絶色男な紳士。
無駄な贅肉など一切ない、鋼のように強かな筋肉が体を覆うストイックな体型はどんな貴族服を着ていたって、隠しきれるものではない。
上着を脱いでシャツだけになった姿なら尚更、腕の動きに合わせて薄い布地が張り、それと同時に生地は彼の腕にぴったりと吸い付いているようで、腕の筋肉や骨格まではっきり浮き立たせているのだから。
長い手脚とスラリと伸びて骨ばった指、大きな手のひらは全てをしっかり受け止めて、何も零すことのないような力強さを宿し、薄紫色の涼しげな瞳は一度相手を真っ直ぐ見据えたら、どんな人間をも虜にしてしまう魅力に溢れている。
そんな誰も彼もを魅了してしまうほど別格な容姿を持った男性が、愛らしさを狙った「おねだり」をして見せても、普通はミミズが全身を這いまわるほどの違和感とむず痒さしか感じないはずなのに!!
なのに!
どうして逆らえないの、私!
素直に後ろ髪を背中に流して首筋を晒してあげちゃうなんて!!
挙句
「ちょっとだけなら」
なーんて、どの口が言うんだ、この口か!!
…と、自分に突っ込むなんて滑稽だわー。
小さなため息と共に視線を上空で泳がせると、ふふ、という彼の吐息が耳元で聞こえた。
「ひゃうっ」
思わず全身に走るくすぐったさを感じて肩を竦めれば、シルヴィ様は晒された私の首筋に一瞬の口付けを落としただけで牙を立てることなく、無意識に硬く握っていた私の左手をとった。
あれ?
視線で問いかければ、彼の温かな視線に見つめられる。
「こっちでいいわ」
「こっち?」
「指。この愛らしい丸い指先からほんの少しだけちょうだい。意識がある時にいきなり首筋は刺激が強すぎるから」
「怖くないわ」
「どうしても、って言うなら喜んで首筋をガブッといくけど、そうしたらきっとこの場でハニーちゃん大洪水になっちゃうかも」
「えっ」
洪水?大洪水?
それってまさか血だまりが出来上がっちゃうくらい大量出血しちゃうかも、ってこと!?
「いいいいいいい、やいやいやいや、それはちょっと待っ」
ぎくしゃくぎくしゃくと首を左右に振り続けながら身を引こうと背中を逸らすけれど、そんな抵抗はムダもいいところ。
シルヴィ様にがっちりホールドされているおかげで、椅子から転げ落ちる心配はないけれど、逃げられもしない。
「ふふふ」
心底楽しげな彼の笑顔が徐々に迫り来る。
ね、ウソ、ウソでしょ!?
そうしてキランと彼の瞳が光った、気がした瞬間。
ぷちゅ
「ふぇ?」
左の人差し指にチクリとした刺激が一瞬と、まるで指先を舐められているかのような、長い長いキス…じゃなくて。
微かに何かを吸い上げられている感覚がある。
覚悟してぎゅっと硬く閉じた瞼を恐る恐る開けば、片方の牙だけを指先に突き刺して音もなく吸血するシルヴィ様の姿があった。
伏し目がちの彼のゆるくカーブしたまつげに思わず視線が行く。
長くて、きれいに揃った黒いまつげ。
見つめていると今度はその下から色を濃くした紫の瞳が私を上目遣いで見つめ返してくる。
うっ。
う、上目遣いは女性の専売特許じゃなかったの!?
視線を逸らすこともできずに見つめあったまま、私の頬は急激に熱を帯び始めた。
ちょっともうそんなに見ないで、お願いだから…恥ずかしすぎるわ、こんなの。
どうして?
心臓が飛び跳ねてからずっと鼓動が早鐘を打ち続けてる。
耳の奥にまで響いてくるそれを聞いていると、もう彼に伝わってしまったんじゃないかって気が気じゃない。
だってほら、にんまりと、得意げな笑みがそこにあるもの。
ヤダ、どうしてこんな…こんなに、ドキドキするの…?
指先が熱い。頬が熱い。頭の中がぼうっとしてる。
訳が分からないまま目頭まで熱くなってきた。
変よ、体中が熱い。
「シルヴィ様、も、やめ…て…」
きっとこれは生理的な涙。
感情が反応しているわけじゃない。
でも止まらない。
堪えきれない。
お願い、それ以上しないで。
牙を…
「抜いて…」
「!?」
突如大きく目を見開いた彼が、すっと牙を抜いてくれた。
そして小さく呻いてから
「ッ」
言葉にならない何かを飲み込んで、勢いよくぐっと私を抱きしめた。
薄いシャツ越しに感じる彼の体温。
触れた頬に伝わる彼の鼓動。
どくどく、どくどくって…私の鼓動と次第に重なり合って、途中からどちらの音か分からなくなった。
だけど、心地いい。
じんわり広がっていく彼の温もりと、肌から鼓膜を通して体中に共鳴し合う鼓動が私の熱を上げているようで、羞恥心でいっぱいになる。
それでも力強い彼の両腕を解く気にはなれなくて、じっと大人しく抱擁を受け入れた。
シルヴィ様に、今度は聞こえちゃう。
こんなに動揺していることも、シルヴィ様の腕に安心していることも、体中をめぐる熱に浮かされていることも。
ううん、それだけじゃない。
羞恥心だけじゃなくて、もっと何か別の、でもよく分からない内蔵を強く抉られるような、そんな感覚。
真っ白になって後頭部がふわっとするような、不思議な感覚が私を支配している。
「シルヴィ、様」
力の抜けた声で呼ぶと、彼は一層抱きしめる腕に力を込めた。
「ごめんなさい、アタシ、危ないわ」
「え?」
切羽詰った声が耳元で悔しげに言う。
危ないって何のこと?
心の中で問い返せば、彼は私を解放して強く両肩を掴みながら、見たこともないほど真剣な眼差しで私を見つめた。
宵闇に近い、深い紫の瞳はまるで宝石のように煌めいている。
「いい?よく覚えておいて。アナタにとって今のアタシはまだ危険人物よ。セレ姉さまの心配も杞憂じゃないってことね」
「でも」
「ダメ、油断しないで。アナタの意識がある時に吸血するとこうなるんだ、ってよく分かった。昨夜はハニーちゃんの意識が曖昧だったから上手くいったようなもんだったんだわ」
「どういうこと?」
「ハニーちゃんに意識があると、吸血しながら感情も思考も感覚も全部伝わってくるの。その全てにアタシの全部が反応しちゃう。夢中で血を吸っちゃうのよ。今だってそう。ほんの少しで良かったのに、アナタから伝わってくるものが心地よくて、その血があまりにも芳しくて味わい深くて、本能に支配されかけた」
やるせなさと悔しさ、情けなさに後悔まで混ぜ合わせたようなシルヴィ様は、眉間に深いシワを刻んで目を伏せて頭を振る。
「こんなんじゃ騎士(ナイト)失格。決めた、アタシ決めたわ!」
「何を?」
「アナタから血をもらうのは、ほんっとうに必要な時だけにする!それ以外は自分で何とかするわよ、やってみせるわ。ハニーちゃんにもちょっと協力してもらうけど」
「どうするの?」
「大丈夫!多分血液ほどじゃないけど、他の体液だって効果があるはずだもの」
「ん?」
「だーかーら!いっぱいキスしていっぱい唾液もらえばいいのよ。そうしたらハニーちゃんに負担はかからないでしょ?」
どうだ!って得意げにおっしゃいますが、それはどうだろう。
精神的ダメージが大きい気がします。
「そんなもの慣れればすぐに呼吸と同じレベルで気にならなくなるわよ。大丈夫。アタシ、口は器用なの安心して」
いや、むしろ不安でいっぱいなんですが!
「あらー?そんなことを言うのはどのお口かしら?随分可愛い色してるわね、食べちゃいたい。ってか食べちゃう」
「あ、うぇっ?」
「次は色っぽい吐息がいいわね」
なんて妖艶に笑った彼は、その後酸欠で倒れるまで私の唇を貪ったとか、どうだとか。
続く