俺とアイツといとこ殿!

一匹の俺と猫

戻れねえよ・・。

そうだ・・
話ができなくてもテレパスがある。

≪流華。。≫

≪なんだ?≫

よかった通じた。

≪もう任を解くゆえ馴れ馴れしく呼び捨てするな。≫

そうだな・・。

流華って呼んでるのは・・俺らだけだ。

大人はもちろん他の従兄弟でも様づけか役職で呼ぶことを義務付けされてる。

≪はい・・・≫

俺らはそうやって別れ・・

正式に解任のテレパスが回ってきたのは3時間後だった。

俺は実家に帰るのもちょっと嫌だったのでマンションを借りて貰って一人暮らしを始めた。

学校は行ってない。

ちょっと休ませてもらってる。

スーパーと家の往復の毎日。

たまにゲーセンに行く。

俺ニート・・?

あんなに忙しかった毎日が暇に変わった。

毎日髪やら歯みがきすらできない女も。

小煩い男もいない。

平和そのもの。

公務もない。殺す殺さないもない。

たまに親が純赤石を速達してくれる。

ただたまに島民全員にテレパスされる島の連絡係に当主とか言葉を聞くと

ビクってなる。

俺は当主をいらないと言ったんだ・・・。

たまに通りすがりの女の人から薔薇の匂いがすると俺の脳裏は占領される。

笑ったり酒を飲んできゅーんってしたり吐息を立てて寝てたり泣いたりしてる女の顔や仕草で一杯になる。

大酒飲みで偉そうで短気で。

でも皆が一目置いてるとびきり可愛い俺のいとこ殿はしょっちゅう俺の頭を占領しやがる。

まだ新しい右翼は決まってないらしい。

俺は流華と1ヶ月ちょい見ても話してもない。行事もないし・・。

流華の誕生日お祝いしてやりたかったのにいらないっていってしまった。

もう過ぎたしな。アイツはなにをしてやったんだろうか。

きっと気の利くなんかだろう。

たまに膨大な力を感じるのは流華が戦いをやめていないからだと思う。

同じ東京にいるし。

アイツもいるんだろう。

このままでいいのかな・・?

なんだかくさくさするゲーセンの中で
マミって女とプリクラを取った。

頼まれたから・・。

全然楽しくもねえのにへらっと笑う。

マミって子はすんげえ楽しそう。
その友達は冷やかしたりしてる。

俺はこんな日常でいいんだけど・・

ルカもアイツもここにはいない。

心臓の穴?がポッカリ状態だ。

ヒューヒューするぜ。

そんな夜のコンビニからの帰り道に俺は不思議な猫と出会った。


不思議猫。

一言で言えばそうなんだが・・猫は猫だしダンボールに入ってる分には

捨てられたんじゃないかって予測はできる。

よくある光景全部のかわいそうな捨て猫を俺は拾うわけでもなく通り過ぎたんだ。

「なにが目の前の・・だよ。俺もそうじゃんか・・」

流華に言った言葉が嘘みたいだ。

俺だって何でもかんでも拾っていない。
何でもかんでも引き受けない。馬鹿か俺!

ずっと見てきた。少なくとも一年は必死でその背中を見てきたんだ。

俺らの事を思う流華の言葉や行動には曇りひとつない青い空が見えた。赤かもしれないけど。

キラキラした背中には羽が生えてるんじゃないかと思ってた。

苦しいとき言葉にせずに飲み込んで俺らを照らし続けてた。

それなのに・・俺は・・いらないなんて思ってもなかったのに・・。

どうして自分がそんなことを言ってしまったのかわからない。

後悔はしてるけど流華に会っても言う言葉が見つからないから会えないままでいた。

「おい・・・そこの・・」

ん?

振り向いたけど後ろには誰もいない。確かに老婆みたいないやオジサンみたいな声が・・した。

気のせいか・・?

歩き出す俺をまた「そこの!と言うてるであろう!!」

やっぱ空耳じゃない。この偉そうな喋り方!なんだか親近感が湧く。

「なんだよ!どこにいるんだよ!!見えねえよ。」

よく分からないけど叫んでみた。

「ダンボールにいるじゃろ?!!可愛い猫が」

相手も逆切れしてきたぞ。

え?ダンボール・・ってきたない猫しか居なかったぜ。

雨がポツン・・ポツンとピアノの始まりのように降ってきた。

「やべ。雨だ。早く帰らないと・・」

「わしも連れて帰れ!!」

うーん・・・・・。振り向くか。

猫だな。・・俺不思議現象には慣れてるハズなんだけど・・

猫が話しているようにしかみえない。

「猫さん・・あのさ・・俺ネコ飼えねえわけじゃないけど・・しゃべる猫はお断わりなわけ。
雨ひどくなったら寒いからさどっかで雨宿りしな。」

「ワシは足が折れている。だから動けん。」

踵を返そうとした俺を・・
ふとつなぎとめたのは足が折れた猫を置いていくことだった。

「ったく?ガセじゃねえだろうな?」

俺はダンボールまで戻った。

白い猫の足元は赤い血が気に滲んでて折れてるかどうかはともかく怪我はしているようだった。

「どうしたんだよ・・これ・・」

悲惨な状況しか思い浮かばない俺はぞっとした。

「ダンボールに入れた女に折られたのじゃ。」

猫を抱きかかえてとりあえず目の前の自分の部屋があるマンションに急ぐ。

雨もひどくなってきたし。一応救急セットくらいはある。

しゃべるしゃべらないは別にしてもこんなの次の日通りかかって死んでたら俺・・嫌すぎる。

猫は俺の腕の中でゴロゴロ喉を鳴らした。

「はぁ・・あったかいのう・・」

俺はくせえぞ。

なんだか可哀想だと思った・・こんなに寒くって雨の日に・・

赤い血はポタポタ滴るくらいに落ちているんだ。

マンションのエレベータのボタンを押す。

「お前ノミとかいねえよな?」

「いるかものう・・ネコだから。」

・・・・。そだな。

「なんでさ。しゃべれんだよ。」

「お前こそなんでしゃべれるんじゃ?」

・・なんでだろう・・。

「もしかして俺今にゃあにゃあ言ってる猫に話しかけてる変人?」

「そう見えるであろうな?しっかし痛いのう。」

エレベータが来た。
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