ひつじがいっぴき。
ここまで一息に言うと、わたしは静かに息を吐いた。
心臓がドクドク言ってる。
自分のことを話すと、どうしてこんなに息が詰まるんだろう。
コンプレックスを簡単に口にできない自分がものすごくもどかしい。
その間、井上先生はずっと黙ったままわたしの話しを聞いてくれている。
わたしは息継ぎのため、口を閉ざした。
井上先生は続きがまだあるだろうっていうことがわかるみたい。
わたしがまた話し出すのを待ってくれているみたいだった。
井上先生が黙っていなければ、きっとわたしはこの続きを話そうとはしなかったと思う。
だって、この続きは『アラタ』さんっていうわたしにとって特別な人を通しての出来事だ。
コンプレックスを話すよりもずっと口にすることが難しい、とても大切なものなんだから……。
だけど、井上先生は言葉を挟まない。
そしてまた、わたしは口をひらいて続きを話しはじめる。
「それから毎日、こうやって熟睡できない日が続いていました。
でも、今から一週間前くらいの時までは寝る前に放送している、あるラジオ番組を聴くようになってそれも改善されたんです。
その番組でパーソナリティーをしている人の声がとても心地よくて、気がついたら朝まで眠れるようになってました。
だけど――……」
「また眠れなくなったのはどうして?」
そこではじめて、井上先生は優しい声音でわたしに問うた。