ひつじがいっぴき。
気がつけば、さっきまで何を言おうかと焦っていたのも忘れ、マートフォンを左耳にひっつけて井上先生に返事をしていた……。
『よかった、電話してきてくれたんだ。押し付けがましかったかなって思ってたんだ』
心から安心してくれている声がスマートフォンを通してわたしの耳に入ってくる。
わたしはびっくりした。
だって、いくら弾みとはいえ、自分から電話したのに無言だった。
当然、わたしの方が井上先生に着信拒否されなくてよかったって思うところなんだよ?
それなのに、井上先生が『よかった』なんて言うんだもん。とってもびっくり。
井上先生の優しい言葉と態度に、気がつけばわたしの目からは涙があふれていた。
――声をかけてくれた。
――話しかけてくれた。
――電話を切らずにいてくれた。
たったそれだけのこと。
だけど、わたしにとって、それはとても重要なことだった。
『眠れない?』
「はい……」
井上先生の言葉にうなずくわたし。
電話だからうなずいても見えない。
そうは思うんだけれど、どうしてかな。
井上先生がものすごく近くにいてくれているようで、ついついうなずいてしまう。
『そっか……。ご飯は食べたのかな?』
「はい」
さっきからわたしは『はい』ばっかり。
井上先生は決まった返事ばっかりで聞き飽きたって思うかもしれない。