ひつじがいっぴき。

面白くないって思われる。

――実際には面白くも可愛くもないんだけれどね……。

それでも、わたしから電話したんだし、アラタさんと同じ声の人にそう思われるのはなんだかすごくイヤだ。

だからわたしはなんとか言葉を繋げようと必死になった。


「せっ、先生は? ご飯……」


うわっ! わたしってば、ものすごくマヌケ。

声は裏返ってるしドモるとかものすごくバカっぽい!


他人とまともに話せないなんて、最悪。

自分の言葉に自己嫌悪たっぷりになっていると、井上先生は何事もなかったかのようにふつうに言葉を返してくれる。


『うん、食べたよ。っていっても、俺の方はインスタントラーメンなんだけどね』


フフって笑う井上先生の声がすごくくすぐったい。


あんなに自己嫌悪に陥っていたっていうのに、わたしってばとっても単純。

気がつけば、わたしも口元に笑みを浮かべていた。


そうして、わたしはその日から、夜10時頃になると井上先生と通話をするのが日課になった。


もちろん、夜はぐっすり眠れている。

おかげで睡眠不足も解消されて、目の下のクマもだいぶん薄くなった。

彼はわたしの、第二の救世主になったんだ。


そうやって毎日電話で話しているうち、わたしは井上先生についていろいろなことを知っていった。


一人暮らしをしていることとか……。

料理がすごく苦手なこととか……。


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