ひつじがいっぴき。
――だけど井上先生は違う。
先生にとってわたしは生徒でしかない。
わたしを家まで送る行為は義務的なこと。
そんなことは知っている。
そこからはどうやっても恋愛感情が生まれるわけがない。
――しかも、先生には好きな女性(ヒト)がいるみたいだし……。
わたしと同じ気持ちなハズがない。
先生はきっとこの煩(ワズラ)わしいわたしから早く解放されたいと思っているだろう。
ズキン。
そう思うと、胸がギリギリ痛み出す。
『鍵がないか』
井上先生がわたしにそうと訊いたのは、少し前、わたしの両親が共働きで家にいないことを電話で話したのを覚えていてくれたからだ。
そんな些細な話の内容さえも覚えてくれる先生がすごく好き。
わたしは苦しい気持ちになりながらも、半分眠っている状態で鍵はカバンの内ポケットの中にあることをぼんやりと話した。
意識があったのはそこまでで、わたしは先生にすべてを委ねた。
するとすぐにわたしの背中はふんわりしたベッドの感触を感じた。
だから無事自分の部屋に戻ったんだってことがわかる。
そのまま目を閉ざしていると、頭を撫でてくれていた。
――気持ちいい。
このままずっと、こうして撫でていてほしい。
胸に願望を抱いたまま体をすり寄せ、甘えた。