ひつじがいっぴき。

もしかしてこれは夢じゃないのかもしれない。そう思ったのは、その人の声が妙にはっきりと聞き取れたからだ。


びっくりしたわたしは目を開けると、そこには今のわたしと同じように大きく目を見開いている井上先生がいた。


――まさか……。

――夢じゃなかった?

先生はわたしに寄り添ってずっと頭を撫でてくれていたの?


そんな……。

じゃあ、わたしは先生に告白したっていうこと?



ドキン。

わたしの心臓が大きく震えたかと思ったら、体は凍りついたみたいに動けなくなってしまった。


――バカ。

わたしはものすごくバカだ。


この想いを秘めていれば、井上先生とずっと通話できていたかもしれないのに……。


こんな地味な奴に好きなんて言われてもきっと気持ち悪いって思われるだけだ……。

でも恋愛感情の『好き』っていうんじゃないと言えばきっと元どおりに過ごせるかもしれない。

だけど、わたしは限界だった。

あふれてくる先生への想いを隠し通せる自信はもうない。


「ご、ごめんなさい。ごめんなさいっ!」


謝ったところで前言は撤回できない。

今さらどうにかなるわけでもない。

拒絶されることは決定している。


できることならさっきの時間をなかったことにしてほしい。


そういう思いで、わたしは先生の胸板を押した。


ズキズキ、

ズキズキ。


痛む胸。

目頭が熱くなって、視界がゆがんでいく……。


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