ひつじがいっぴき。
「つまり、こういうこと」
先生はそう言うと、わたしの腰を引き寄せた。
その直後、わたしの唇に柔らかい感触が触れた……。
わたしの唇に触れていたソレが離れる時、リップ音が耳に響いた。
そこではじめて、わたしは先生とキスしたんだっていうことに気がついた。
顔が熱いから真っ赤になっているのは自分でもよくわかる。
先生はわたしのことが好き?
そう思って顔を上げれば……。
先生は微笑んでいるだけだった。
恥ずかしそうでもないし、わたしみたいに顔を赤くするわけでもない。
とても普通だ。
……もしかして、わたしがこんなだから先生にからかわれているだけなのかもしれない。
それならとても悲しいことだ。
だって、先生に対する恋心は本当で、本気なんだもん。
だけど――……。
そうだよね……。
可愛くもないわたしを、先生が本気になってくれるはずない。
「も……いいんです。帰ってください……」
「中山さん? どうしてそういうことを言うの? 俺は……」
「だって、わたしは自分が可愛くないことはよく知ってるっ!!」
言った瞬間だった。
わたしの目から涙がするりとこぼれ落ちた。
どうやらもう、我慢は限界だったらしい。
一度涙をこぼしてしまうと、後に続いて次から次へと流れ出す。
ズキズキ、ズキズキ。
胸の痛みは治まるどころかひどくなる一方だ。