ひつじがいっぴき。
アラタさんは臨時で雇われたパーソナリティーで、なんでも以前からパーソナリティーをしていた人は風邪をこじらせたらしくて声が出せないらしい。
それで代わりにアラタさんが入っているんだって。
っていうことは、いつか近いうちにパーソナリティーは元に戻ってしまうということで……。
近いうち、わたしの安眠はまた遠のいていくことになる……。
だけど残念に思うのはそれだけじゃなくって、アラタさんの声が聴けなくなるっていうこと。
だったら少しでもわたしっていう人物がいたことを彼に知ってほしい。
わたしはアラタさんに手紙を出す事に決めたんだ。
手紙には、
『アラタさんの声で眠れるようになったこと』
『引っ込み思案だけれど勇気を出して手紙を書いたこと』
そんなどうでもいいことまで文章にしてアラタさんのファンとして書き綴った。
いつものわたしなら手紙なんて書かない。
だけどアラタさんは別。
熟睡できなかったわたしにとって彼は救世主みたいなもので、しかもいなくなってしまうことがわたしを動かす引き金になったんだ。
そうしてアラタさんはもう一週間ラジオ番組のパーソナリティーを務め、元のパーソナリティーと代わってラジオ番組からいなくなった。
わたしは……っていうと、また熟睡できなくなってしまった。
アラタさんを知る前と同じ生活が続いている。