ひつじがいっぴき。
髪の毛は細くて、髪の色は焦げ茶色よりも少し明るめ。
名前だけじゃなくって声までも似ているなんて、こんなことってあるのかな?
もしかして、もしかすると彼は『アラタ』さんなのかな。
だけど、わたしは根暗で引っ込み思案。
当然、初対面で『井上先生はアラタさんですか?』なんて訊(キ)けるはずもない。
第一、名前なんて同じ人はたくさんいるし、声だってたまたま似ているのかもしれない。
アラタさんと井上先生が同一人物であるはずがない。
世間はそんなに狭くはないハズだ。
それに、同一人物かもしれないと期待して、違った時はとても恥ずかしい。
そう自分に言い聞かせても、アラタさんの声が聞けなくなって穴があいたように感じたスースーするわたしの胸は、どこかぽわんとあたたかくなった。
そして同時に、落ち着きもなくなった……。
けっきょく、臆病なわたしは井上先生に『アラタ』さんのことを訊けないまま、ただ訪れる日々を悶々(モンモン)と過ごすだけだった。
そのおかげでわたしの眠りは前よりもずっと浅くなってしまう。
――そんなある日のこと。
すっかり眠れなくなってしまったわたしの体がとうとう悲鳴をあげたんだ。
視界は黒と灰色のモザイクが広がって、次の瞬間には真っ暗闇になった。
平日の学校。
昼休憩の時、わたしは廊下で倒れてしまった……。
そのことを知ったのは、わたしが次に目覚めた時だった。