遠くへ行く君、見送る私




 男子のネクタイよりも女性のネクタイは少し短く、細身だった。それを私は毎日結んでいった。雨の日も、大雪の日も、いきたくないという憂鬱な日も。

 もうこれを着る機会はない。

 三月中に、同級生の中でも一人暮らしのため地方へ行ってしまう子は何人かいた。期待と夢。そして不安。私もその一人だが、まだ余裕がある。とはいえ、荷造りはしなければならず、狭い部屋は段ボールで埋まりそうだった。
 私は期待よりも、不安のほうが大きくて参ってしまう。





「よお」

「どうしたの、急に」





 段ボールにうんざりしかけたとき、私は誠二から呼び出しをくらった。
 メールで「ちょっと顔見せられないか」だなんていわれて、段ボールだらけの部屋から出てきたのだ。だから服もずいぶんラフ、いや、手抜きのかっこうだし、その上にダッフルコートを着ただけ。なんともまあ、冴えない感じだろう。

 数日前大雪うんぬんとニュースがやっていたが、ここではあんなの、と私はブーツについた雪を見て思う。
 待ち合わせは駅だった。
 ワンマンの、さびしい無人駅。





「引っ越す日決まったんだ」

「いつ?」

「明日」

「はあ!?」

「うそうそ。来週の日曜。入学式までまだ日にちあるけどほら、慣れないとってことで早めに行くことにしたんだ」





 来週の日曜まで、あと数日。
 数日で誠二は進学のため都会へと出てしまう。それは私も変わらないが、もう誠二とは高校のときのようにはじゃれあえないのかと思うと、さびしい。馬鹿なことをやっているうちが一番楽しかったのだ。


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