遠くへ行く君、見送る私
地元に戻れば会える、と思っているのだろう。
確かにそうだ。連絡さえとれれば、会うことは可能だろう。けれど、私が本当に望んでいるのはそれなのだろうか。
違う、という答えが出る。
違う。そう、確かに会いたいけれど、それはただの友人としてというものではなくて、もっと別なものとしてで。
今日も誠二は手袋をしていなかった。それを言おうとして「そろそろ外出ようぜ」というそれに阻まれた。時計を見ると確かにもうすぐ電車がホームに入ってくるだろう時間だ。
先に待合室から出た誠二に続いて、私も後にする。ワンマンがとまる駅は実に淋しいものだ。いつだったか見た昔の写真ではもっと乗車しようとして待つ人の姿があったのに。
今は私と誠二だけ。
淋しいけれど、今は邪魔されたくなかった。
「あ、茜。ひとつお願いがあるんだけど」
「なに」
「お前のその手袋くれないか。着くまでまだまだ時間制かかるし寒いからよ。次会ったときに新しいの買ってやるからさ」
そういっても、私の手袋は結構ぼろい。
それでもいいのかと聞けば、「前からた ろうが」と笑われた。確かにそうだが。
私の手袋は少し大きい。
それは多分誠二のせいだ。お前のかせよ、といつも私のをもっていくから。
奥からだんだん大きくなる影はスピードを落とし、やがて駅へと止まる。私と誠二の前に。そして誠二をのせるために。
行くなだなんていえないし、さよならもなんだか嫌だ。
それに「じゃあな。わざわざ見送りありがとう」何も言えないのも、さらに嫌だ。