憧れのコンプレックス
episode 2 ~告白~


A.M.10:00
@喫茶店


「ここのパラグラフがいいよね」
「はい、すごく表現が素敵!」


目の前にいるのは柏木翔くん
学年首位で、落ち着いてて優しくて、ジェントルマンのような人

こんな人と仲良くなったのは半年前

喫茶店で本を読んでいたら、ちょうど隣の男の人も同じ小説を読んでいて

「あ、同じ小説ですね」
「は、はい」

「しかもすごく付箋がいっぱい。趣味で読んでるんじゃないんですか?」

「いや~素敵な表現のところは何回も読み返したくて」
「そうなんですか。あ、僕もそこの表現好きです」


話してみると
好きな作家とか表現の好みとかがけっこう一緒で


それからたまに喫茶店で会って
オススメの本とか聞いたりして
同じ高校のしかも同い年だと知ってからは、勉強まで教わるようになって




「お会計はご一緒ですか?」
「はい」

「え?あ、あの…」
ふ、と軽く微笑まれる
「女の子に払わせないよ」


…かっこいいなぁ
紳士だなぁ



「葉山?」
「え?あ、ごめんなさい」
出会ったころを回想していたあたし
慌てて現実に頭を戻す


「葉山ってさ、たまに敬語になるよね。遠慮してる?」ちょっと寂しそうな笑顔
「あ、ち、違うの!翔くんて大人っぽいからつい敬語になっちゃうんだよね…考え方とかしっかりしてるし。振る舞いもジェントルマンみたいだし…」

な、なに言ってんだろあたし
カーッと頬が熱くなる


「…葉山っておもしろいよね」
「ははは…」



「好きだよ」
翔くんがティーカップとお皿をカチャリと鳴らす
「俺のことどう思ってる?」



P.M.2:00
@スポーツショップ


バスケ部員から頼まれた手袋を買いに、あたしはスポーツショップに足を運んだ


手袋を見てるとふいに声をかけられる
「よう」
「孝!も来てたんだ」

「自分の手袋は自分で選びてぇからなー」
といって下の方の手袋を見るためにしゃがみ込む

「確かにね」
あたしも続いてしゃがみ込んだ



成瀬孝、バスケ部キャプテン
あたしはそのバスケ部のマネージャーだ


知り合ってもう長い2年は経つ



2年前、胃腸風邪で2週間寝込んだあたしはマネージャーになったのが人より遅かった

高校生にとって2週間っていうのは長いみたいで、マネージャーと部員はもう打ち解けてて
あたしは乗り遅れてて


倉庫で1人ボールを磨いてたら
背の高い目つきの悪い人が入ってきた

あ、この人めちゃくちゃバスケ上手い人だ、確か名前はー


「ぷっだせぇ。乗り遅れて友達できねぇのか?」

グサリ

第一印象は最悪だった



「だ、だって胃腸風邪で寝込んだんだもん!しょうがないでしょ」
「2週間がなんだよ、こっから取り返そうとしろよボケ」

何この人、口悪いなぁ!


「いっつもボール磨きばっかしてねぇでよ」ひょい、とあたしの磨いたボールを取る

いつも?知ってたの?誰も気にかけてないと思ってたのに


その後から成瀬孝はなにかとあたしをからかってきた


「ちょっと成瀬くん!」
「なんだよ成瀬くんて、かいぃ。孝でいーよ、みんなそー呼んでんだから」
「……こ、孝?」
「おう」あ、ちょっと嬉しそうな顔


「んじゃ俺も乗り遅れさやちゃんって呼ぼーかねー」
「な、なんでそーなるの!?」
「にししーんじゃな、沙耶!」背も大きいけど、手も大きい
そんな手をヒラヒラ振って


……
後から知ったけど、孝が名前で呼んでる女子はあたしだけだった

人見知りのあたしにいじわるしてからかって、でもその結果、孝を通してみんなとしゃべれて仲良くなって
いつのまにか溶け込んでいた


ガサツだけど、優しいんだ



そんな二年前のことを思い出す


なんだか、今なら言える気がする


「孝、ありがとうね」
「…は?」

「あたしさーマネ始めたとき乗り遅れてたじゃん?でも孝がからかったりしてくれたから…溶け込めた気がする」
「…………」

「あ、ごめん。なんだよ急にって話だよね…」

ばっと立ち上がる孝
「バーーカ。俺だけのおかげじゃねぇよ。お前ががんばったんだろ?」


ばっとあたしも立ち上がる
「………うん、でもありがとう!」

あはは、ちょっと照れるな




「好きなんだけど」カシャっと孝が手袋を吊るす金具をならした

「え?」
孝を見ると横顔が真っ赤で

「だーから好きだっつってんの!」


「俺のこと好きになれよ、沙耶」



P.M.7:00
@アルバイト


1年半前から続いてるレストランでのアルバイト

あたしは黙々と洗い物をしていた
「さやちゃんっていつもがんばっとるよなぁ」
「あ、芯ちゃん!」

「おはー」元気いっぱいスマイル


このちっちゃくて(あたしよりは高いけど)人懐こい人は藤堂芯ちゃん

芯ちゃんはバイトの先輩で、新人だったころあたしの教育係をしてくれた

「せやからな、こう言われたらこう返せばええんよ」
「今のミスなんで起きたかよう考えて、これから気をつけような」

芯ちゃんは仕事のときは優しくも厳しい

でも休憩のときはすごい明るく、周りのみんなをいつも笑わしてる


「そいや、さやちゃん今ではもう色んな先輩にかわいがられとるやん。よかったなぁ」

あたしは人見知りだから、慣れるまですごく緊張していた
仕事もテキパキできなくて、先輩に怒られて泣きそうになるときもあった

でも芯ちゃんがいつも励ましてくれて、ようやったなぁって褒めてくれて
あたしにとっては他の先輩とは違うんだ

「でも芯ちゃんが1番最初に仲良くしてくれた先輩だよ!ずっとお世話になったし迷惑かけたし…それでも励ましてくれて。あたしそれは絶対忘れない!」

「ふ…じゃあ俺は特別なんや?」
「うん!!」

言ってからいつも恥ずかしくなる
でもずっと思ってたことだし


芯ちゃんがこっちをまっすぐ見てきた
たまにする、このまっすぐな視線と真面目な顔
ドキリとする


「…好きや」


「な、な、えっ?」
「顔あこなってかわええなぁ」次の瞬間にはいつもの人懐こい笑顔に戻っていた

「ぎゅーってしたい」
「ちょ、ちょっと待って!!」


「俺と付き合うてくれへん?」




P.M.10:00
@自宅


あ、あ、ありえない
あの!大モテ御三家から!同じ日に告白されるなんて!!!

全員にちょっと時間をくださいって返事をして
家に帰るまではパニックになるから、告白されたこと考えないようにしてたけど

もうムリ!!!!


はっあの3人仲良しだから、グルになって罰ゲームとかであたしに告白を…
いやいやそんな人たちじゃない!!



ほ、ほんとに…?

だとしたらすごく嬉しい
嬉しすぎてもう夢みたい

ぎゅーっと頬を強くつねった
ひりひり痛むこの頬が現実だということを知らせてくれる

どうしようどうしよう


三人ともすごく素敵だと思ってたけど、好きとかは考えてなかった
だってみんなかっこいいし、モテるし

でも3人はあたしを好きだって言ってくれた

あたしもきちんと考えて答えを出さなきゃいけない!!
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