憧れのコンプレックス
episode 3  ~アプローチ~


「これから俺たち3人、1ヶ月間アプローチするから。その後に誰が好きか葉山に言ってもらいたい」

それから1ヶ月言われたとおり
あたしは猛アプローチを受けた







6/5
@映画館


「あの小説映画になったんだってね。一緒に観に行かない?」翔くんからデートのお誘い
「う、うん!」


喫茶店以外では会ったことなくて
一緒に映画なんて緊張する

2人並んで座る
けっこう距離が近い



「!!」映画の途中、あたしの手の上に翔くんが手を重ねてきた
「手をつなぐのは俺たちのルールで許されているんだ」小声でささやかれる

いやいやあたしのルールでは許されてませんから!心臓爆発しそう!


映画のあと、いつもよりすごく難しい考察を、でもわかりやすいように話してくれる

やっぱり知的。かっこいいなぁ
頭がいいのに謙虚で優しいし


「あれ、その人は昨日やったって言ってなかった?」
「…そうだった?」
「?」

「…葉山の手にぎってたから緊張して聞き逃したかも」そう言った翔くんが珍しく余裕のない顔をしていて
ドキドキして胸が苦しくなった








6/8
@スポッチャ


「さや!一緒帰んぞ!待っとけ!」
「え?あ、うん」アプローチも強引だなぁと思わず笑ってしまう


孝に連れられて放課後、スポッチャへ

ミニバスケ、ミニサッカー
ばんばんゴールを決める
さすがの運動神経、かっこいいなぁ


あたしがローラースケートでこけそうになると

「だっせ~~」
「ひどいー!」

特に甘い雰囲気にもならない。孝らしい



「うーっし、そろそろ帰るか!送るわ」駅前でそう言われた

「え、いいよ?こっから家近いし」
「いいから…行くぞ」
そう言われて手を引かれる

つまり…手を繋いでる
うわーーーこれほんとにカップルみたいじゃん


孝、耳紅い
すぐ紅くなるよね
そんな孝にドキドキする
軽くつないでるのに手がすごくあったかかった










6/20
@アルバイト


でも、1人だけ全く態度が変わらない人がいた

芯ちゃんだ

告白してくれた後もいつもと変わらない態度で

「今日忙しそうやな、がんばろ~」

「あ、さやちゃん後ろ髪ハネてんで~」

何も誘われないし、普通にバイトするだけ

ほんとにあたしのこと好きだったのかな?と思ってしまうくらい
ちょっと寂しいと思うのは欲張りかな


告白されて20日が経った日
休憩が一緒になった
告白されてから初めて2人っきり


「かっしーと孝ちゃん、アプローチすごい?」
あ、急にその話題

「え、あ、うん…2人とも自分の特技でアプローチしてくれて…改めてすごい人たちだなって思ったよ」

「…すごいよなぁあの2人は」はは、と笑うその笑顔はいつものような元気がない



…あれ?

なにか違和感

なんだろ翔くんと孝には感じなかった

この感じ

あたしは3人は似てると思ってたんだけど、芯ちゃんだけ何かが違う気がする…


何かが…ないような気がする




「さやちゃん手ぇ出して」
「手?」右手を出す

「両手」
両手を出すと、芯ちゃんはあたしの両手を包み込むようににぎった

「あの2人とは両手はにぎらんかったやろ?」にっと笑顔
「う、うん」

目を閉じる芯ちゃん


数秒間の沈黙
明るい芯ちゃんと一緒のとき、こんなことは滅多にない


両手が熱い
ドキドキが手から伝わっちゃいそう

「俺、今までアプローチせえへんかったけど、さやちゃんのことはきちんと本気で好き」
そう言ってそっと手にキスをする

ドキッ

あ。あたしの手じゃなくて自分の手にしたのか


「んじゃ戻りますか~!」立ち上がった芯ちゃんはまた人懐こい笑顔になっていて



3人の中で芯ちゃんは1番つかめない
今までいつもと全く態度変わらなかったのに、急にこんな真っ正面からドキドキすることするし

常に笑顔で
でも心から楽しそうな笑顔のときもあれば、みんなに気づかれないように無理して笑ってるときもある



今あたしに背を向けてる芯ちゃんは、どんな顔をしてるの?
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