桜まち 


私がチーズパンを完食した頃、櫂君がどんよりとしたまま顔を上げた。

「あの、菜穂子さん……」
「ん?」

「昨日のことなんですが」
「うん?」

「僕、何かしでかしたりしてないですよね?」

辛そうながらも顔を上げ、窺うように自信なさげな顔つきをする。

「しでかす?」

うーん。

私は、昨夜のことを思い出す。

「しでかしたって言えば、しでかしたかな」
「えっ……、僕なにかやっちゃいましたか?」

縋るように訊ねる櫂君に、私は逆に質問した。

「もしかして。記憶なし?」

まさかね。
なんて思って訊いたのだけれど、無言の数秒間が辺りを包んだ。

「本当に?」

私はちょっと驚いて訊き返した。
すると、何故だか申し訳なさそうに頷くんだ。

ありゃりゃ。
そうですか。
何にも憶えていないのですか。

コンビニで大量にお酒やつまみを買わせたことも?
あ、あれはまだ飲む前か。

じゃあ、僕専用です。とか、気安くしゃべりすぎだ。とか。あの辺りからかな?

ふむふむ。
ちょっと、面白くなりそうじゃないのよ。

私の子供のようなイタズラ心が騒ぎだす。


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