桜まち
「その時僕、何か言ってましたか……?」
頭を抱えたままで、泣きそうな表情がなんだか段々可哀相になってきてしまった。
そろそろ勘弁してあげようかしら。
「何かって……」
そういえば抱きついてきた時に、こうしたらあったかいですよ。なんて言ってたよね。
昨日の夜も、かなり冷え込んでたからね。
酔っていても、気遣いばっちりな櫂君でしたよ。
縋るような瞳の櫂君をからかっていると、いつものお呼びがかかった。
「川原ー。会議室」
いつもの如く、部長から指示が飛んできた。
「じゃっ。ちょっと行ってくるね」
櫂君との話もそこそこにノートPCを持って立ち上がると、まだ話は終わってないですよ。と焦ったように引き止められる。
「あの、僕なんて言ったんですかっ?」
教えて下さいっ。と不安で泣きそうな顔が必死すぎて可哀相なので、仕方なく言ってあげた。
「気にしないでー」
ヒラヒラと手を振り会議室へ足を向けると、背中越しに櫂君の情けない声が聞こえてきた。
「気にしますってぇ~」