桜まち
おしゃれしてみよう
―――― おしゃれしてみよう ――――
長い会議を終えて席に戻ると、櫂君がじーっと私を見る。
「な、なに……?」
「気になって、少しも仕事が手につかないんですが」
「え? ああ、昨日のこと?」
「そりゃあ、そうですよ。僕一体何をして何を言ったんですか? それに、あんなことって……」
櫂君が、あーだこーだ言っているのを右から左に流していると、社内メールが届いた。
「ん? ほうほう。これまた盛大ですね」
「菜穂子さん。僕の話、聞いてますか?」
「え? あ、ごめん。聞いてない。それよりさ、今年も来たよ、ほら」
櫂君の記憶喪失についてはスルーして、私はメール画面を櫂君に見せる。
「クリスマスパーティー? ああ、あの盛大なやつですよね」
「そうそう。毎年恒例の、社内行事」
「クリスマスと忘年会を一緒にやってしまおうっていうのでしたっけ」
「うん。あ、櫂君は、去年初めて経験したんだっけ?」
「はい。なんか、よくわからないうちに、ビンゴやなんかに巻き込まれて、気がついたら景品のホットプレートをGETしてました」
「あ、そうなの? それ、すごいじゃない。私なんて、もう何回も出てるのに、いまだ参加賞の、社内ネームが入ったボールペンしか貰ったことないよ。ほら、これ」
引き出しから、なんとも安っぽい造りのボールペンを取り出し、カチリと鳴らす。
ボディーには、会社のロゴと社名がばっちり入っていた。
「でも、ホットプレート貰っても使い道がなくて、未だ箱に入ってそのままですけどね」
「ええー。焼肉とか、お好み焼きとかすればいいじゃない」
「一人でやっても仕方ないじゃないですか」
「彼女は?」
「だから、いませんて。僕には、想う人がいるんですっ」
酷く怒って言い返されてしまった。
まぁ、いい。