桜まち
「日程は、来週の金曜日だって。ちょっと楽しみだな。へぇ、今年はリッツでやるんだ。気張りましたね、社長」
ここにはいない社長に向かって、よっ。やるねっ。なんてかけ声をかけていると、櫂君には少し呆れた顔をされてしまう。
「普段のスーツ姿でいいんですよね?」
「もちろんだよ。場所は大層な所を借りるけど、気取らないのがうちの会社の楽で良い所なんだから」
大体、ドレス着て来いなんていわれても、持ってないし。
「いつも会社に来ている格好でいいのよ。そもそも、仕事終わりにそのまま行くのに、いちいち着替えてられないでしょ」
とは言っても、女性社員は、その日かなり頑張っておしゃれしてくる人が大半だけどね。
あ、そうだ。
翔君がくれたネイルチップ。
せっかくだから、あれつけて行こうかな。
指先だけでも、たまにはおしゃれしないとね。
それで、望月さんにその日偶然逢ったら、さりげなく爪をチラッと見せて、素敵でしょ? みたいな。
むふふふ。
「あれ? なんか、嬉しそうじゃないですか、菜穂子さん」
「ん? そう?」
望月さんのことを考えると、つい頬が緩んでしまいます。
そうだ。
これを機に、ちょっとおしゃれに目覚めてみようかな。
美容院にも行って、新しいスーツと靴も買って。
あとはー。
うーん。
帰りに本屋さんでファッション誌でも買って勉強しようっと。
望月さんに
川原さん、綺麗になったね。
なんて、言われたら、どうしようーーーっ。
きゃあっ。
妄想を炸裂させていると、隣から冷たい視線が刺さる。
「顔、だらしなくなってますよ」