桜まち 
夏真っ盛り





  ―――― 夏真っ盛り ――――




仕事帰り、本屋に寄るのが面倒でお祖母ちゃんのコンビニでファッション誌の立ち読みをしていた。

「ふむふむ。最近は、こんな物が流行っているのね」
「あれ? どうしたんですか? ファッション誌なんて見て」

丁度お客が居なくなったのを見計らい、レジにいた翔君がそばにやってきた。

「うーん。たまにはおしゃれしようかなって思って。ほら。翔君からも、せっかくネイルチップ貰ったしね」
「あれ? もしかして、彼氏ができましたか?」

「違う、違う。まだだよ」
「まだって。じゃあ、好きな人だ」

「正解」

私が人差し指を立てて言うと、とうとう菜穂子さんにも春がやってきたんですねぇ。なんてしみじみ言われてしまう。
確かに、しばらく春は来ていなかったけれどね。

「翔君こそ。春はまだ来ないの?」
「俺ですか? 残念ながら、俺にはまだ来そうにないですよ」

がっくりと首を下げるので、よしよしと頭を撫でてあげた。

「取りあえず、美容院にでも行ってこようかな」
「髪、切るんですか? 俺、菜穂子さんのそのストレートロング、結構好きなんですけど」

「なんか、年中これでしょ。たまには、ウエーブとかレイヤーとか、どうかと思って」
「うーん。ウエーブですか。大き目の緩々パーマとかどうですか?」

「ありがと。美容院に行って、担当さんにちょっと訊いてみるね」

家に戻り、早速美容院へ予約を入れる。
パーティー前日の夜が空いていたので、すぐに予約を入れてもらった。

どんな感じに変身できるか、楽しみだなー。


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