桜まち
週末には、新しいスーツとヒールを購入した。
といって別段こじゃれたものというほどでもない。
パーティー用にと特別なデザインの物を買ってしまうと、その後特別な時にしか着れなくなりそうなので、スーツは普段でも着られるようなデザインのものにした。
ヒールは、いつものより少しだけ高めのヒールを選んだ。
履いて歩いてみるとちょっと不安定だな、とは思ったけれど、デザインが素敵だったからそっちを重視した。
ヒールの高さには、履いて行くうちに多分慣れるだろう。
で、パーティー前日には美容院でカットをしてもらった。
美容師さんによると、髪の毛の色素がもともと薄いのでカラーはしなくても軽く見えるし、カラーをして髪をわざわざ傷める必要はないという。
翔君も言っていたように、ここまで綺麗に伸ばしたのにもったいないといわれた。
なので、カットとパーマをお願いした。
毛の量を少し調整して、ゆるめにふわっとウエーブをかけましょうとのこと。
お手入れも簡単だから、私向きだとか。
完成した鏡の前の自分を見ると、なんだかちょっと別人のようでうれしはずかしだ。
「前髪をこんな感じで流して。髪を乾かす時は、毛先を揉み込むようにしながら乾かして、あとはワックスでクシュッと散らしてくださいね」
美容師さんは笑顔つきで簡単にお手入れの説明をしてくれたけれど、自分でちゃんと毎日できるだろうか?
今まではずっとただのストレートだったから、乾かしっぱなしでろくに何もしなくて平気だったから、毛先を揉み込むだの、ワックスだの言われてもできるかどうか。
不安を抱えつつも、変身した自分に心がウキウキしていた。
弾むような足取りでマンションに戻り、エレベーターに乗って三階渡り廊下に出ると、望月さんが寒空の下煙草を燻らせながら桜の木を見ていた。