桜まち 


拗ねてしまった櫂君を放置してメールチェックをしていると部長に呼ばれた。

「川原ー」

きっと、また会議議事録を頼まれるのだろう。

今日は何の会議だ?
営業か?
それとも開発か?

首だけを部長の方へ向けると、何故だか手招きされる。
今までならいつものことなので席に座ったまま指示を出し、さっさと行って来い。てなくらいの感じなのに、今日は部長がわざわざ私を呼びつけた。

なんだろう?
私何かやらかしたっけ?

たいした仕事はしていないけれど、ミスをするような事は何もしていないはず。
だけど、わざわざ呼ばれてしまうと、むしょうに不安になる。

まさかの異動?

クイクイッと部長に手招きされてドギマギしながら恐る恐る行くと、馬子にも衣装だな。クククッと笑われた。

おいっ! わざわざ呼びつけてそのセリフかいっ。
無駄に緊張してしまったじゃないのよっ。

上司だけど、激しく突っ込みたくなってしまう。

「今日は、開発の会議だ。頼むぞぉ」

薄っすら笑いながら指示されると、本気で突っ込みたくなるんですけど。

マジでさっきのセリフを言うためだけに呼んだらしい。
どついたろかっ! と関西人張りに心の中では突っ込みを入れる。

不満ながらも、仕方なくノートPC片手に会議室へ足を向けた。
ヒールを巧く操れずにヨロヨロと歩いて行く後姿に、櫂君が頑張ってくださいね。と声をかけてくれる。
その声に反応して振り向いた瞬間に足首がグキッとなって、捻挫するかと思った。

危ない、危ない。

いつもより高めのヒールには、なかなか慣れそうもないや。
私も、ちょっと張り切りすぎたみたい。


< 113 / 199 >

この作品をシェア

pagetop