桜まち
「川原って、いっつも議事録とってんじゃん」
「うん」
仕事だからね。
「実はさ、俺結構気にしてたりすんだよね」
「何を?」
「何をって、お前のことに決まってんじゃん」
お前って……。
佐藤君は、隣の私へ少し身を乗り出して顔を近づけてくる。
「いっつも真面目にカタカタキーボード叩いててさ。余計なことも言わないでちゃんと仕事してんじゃん」
そりゃそうでしょうよ。
議事録取ってるだけの会議に、無関係な私が口出ししてどうすんのよ。
佐藤君は酔った勢いにまかせて、私の肩を抱き寄せた。
「ちょっとぉ」
眉間にしわを寄せて、その手を離そうとしても、酔っ払いの佐藤君は離してくれない。
「川原さ。今、彼氏いる?」
肩を抱き、顔を近づけて今度はそんなことを訊いてくる。
私は、抱き寄せる佐藤君の手から逃れようとするけれど、なかなか手を離してくれない。
「彼氏なんかいないけど、何?」
あからさまに嫌な顔をしても、酔った佐藤君には効かないらしい。
「じゃあさ。俺とどう?」
「はぁっ? もう、何言ってんのよ。佐藤君、酔っ払いすぎじゃない? いいからこの手を離してよ」
「なんだよ。冷たいじゃんか。せっかく綺麗になったから付き合ってやるって言ってんのに。俺、花形の営業だよ」
だから、なんだ。
ったく。
酔っ払いすぎだよ。
「なぁー、かーわーはーらー」
佐藤君は、肩に置いた手に更に力を入れると顔を寄せてきた。
息が酒臭い。
接待の席でもないのに勘弁してよ。