桜まち
「もうっ。いい加減に――――」
してっ!!
と叫びだしそうになった瞬間、佐藤君の体が私から急に離れていった。
よく見ると、櫂君がいつの間にかそばに居て、酔った佐藤君の体を引っ張って離してくれていた。
「佐藤先輩。ちょっと酔いすぎですよー」
そういう櫂君の顔は笑っているように見えるけれど、明らかに怒っている口調だった。
「なんだよ、藤本。先輩の邪魔すんなよっ。俺は今、大事な告白の真っ最中なんだぞ」
佐藤君は、急に間に入られたことに怒り出す。
「見てみろよ、藤本。川原がスゲー綺麗になってんだよ。だから俺はな、こいつと付き合ってやろうと思ってな」
こいつって……。
お前やらこいつやら、急に親近感持ちすぎでしょう。
まー、綺麗になったってところは素直に受け止めるけど。
絡み始めた佐藤君に呆れながらも、櫂君はさらりと受け流す。
「そうですね。でも、それは前からですから」
「ん? 前から?」
櫂君の返しに佐藤君が首を傾げて考えている。
「とにかく、そういう大事な事は、素面でやったほうが誠実ですよ。あ、ほら。社長がこっちに来ますよ。挨拶した方がいいんじゃないですか? ネクタイも直して。ね」
そういって佐藤君のネクタイに手をやり、クイクイッと直してから、歩いてきた社長の方を見る。
櫂君にそう振られて、こっちに向かって歩いてくる社長を確認すると、佐藤君は急に真面目腐った顔つきになり、ビシッと背筋を伸ばすとそばにあった水を一気飲みした。
それから、社長の方へとスリスリと擦り寄っていってしまった。
「花形の営業が台無しね」
佐藤君のそんな姿に溜息を零すと、櫂君が佐藤君の座っていた椅子に腰をおろして憮然とした顔を向けてきた。