桜まち
テーブル席には、一枚ずつビンゴカードが置かれていた。
会長がビンゴの玉を抽選して秘書が番号を読み上げはじめると、会場は今まで以上に盛り上がりを見せる。
だけど私は、ビンゴよりもお腹の中のモヤモヤに何故だかひどくイライラして、読み上げる番号なんか無視で一つ目のグラスのワインを飲み干した。
「また、そんな一気に……。何か食べたほうがいいですよ」
ついさっき小競り合いをしたばかりだというのに、気遣いばっちりの櫂君が私に何か食べるよう促す。
そんな櫂君の言葉を無視していると、呆れたように溜息をつかれた。
「僕、何か食べる物持ってきますから。待っていてくださいね」
そういい残して、櫂君は料理の並ぶテーブルの方へ歩いていく。
その後姿をなんとなく見送っていると、さっき一番に櫂君へと近づいてきた女の子が、またスカートをひらつかせてそばに行くのが見えた。
ヒラヒラスカートの彼女は、櫂君にべったりと寄り添い、なにやら耳打ちするように話しかけている。
「モテモテ君じゃないですか」
モヤモヤとイライラのまま言い捨て、二杯目のグラスも一気に飲み干したけれど、まだまだ飲み足りなくて、私はまたアルコールを取るために席を立った。
今度は、カクテルにしようかな。
テーブルの上に並ぶグラスの中から、透明で小さな泡の上がる飲み物を手にして口にしてみる。
「ジン?」
そのグラスを持ったまま席を振り返ると、櫂君はまだスカートヒラヒラの女の子とべったりくっついて話し込んでいた。
その姿に息を漏らし、私は会場を抜け出した。