桜まち
言い過ぎました
―――― 言い過ぎました ――――
後ろの大きなドアを細く開けて、会場内の喧騒から逃れるようにすっと静かに廊下へ出る。
ドアが閉まると、中があれだけ騒がしかったのが嘘みたいに静かだった。
それでも無音というわけではなく、緩やかに静かな音楽が流れている。
クラシック?
その辺りのジャンルにはとんと知識がないのだけれど、それでも心を落ち着かせる音楽だなぁ、なんて感想は持った。
クロークに人がいるだけで、高級そうな絨毯の敷き詰められた廊下には、ほとんど人がいなかった。
グラスを手にしてフラフラ歩いて行くと、大きな窓の外がベランダのようになった場所が窺えてそっちへ向かう。
行儀悪くも、歩きながら何度もアルコールを口にして、炭酸で締め付けられる喉の感触と、アルコールで燃えるようなお腹の感覚を味わっていた。
大きな硝子扉に近づき押してみると鍵も開いていたので、そのままベランダの外に出て冷たい夜風に当たる。
寒っ。
酔っているとはいえ、この季節にさすがに上着なしで外に出るのは、厳しいものがあった。
クロークに戻って上着を貰ってこようかと思ったけれど、ちょっと酔い覚ましというか、頭を冷やしたほうがいいかもしれないなと上着を諦める。
「あーあ。つまんないなぁ」
寒空に向かって零すと、さっき言い合いになった櫂君とのことがまたムクムクと甦り感情を揺さぶってきた。