桜まち
ていうか、なんで私、あんなにイライラしたんだろう。
櫂君がチヤホヤされるのなんていつものことだし、私がそんな女の子たちから目の敵にされているのもいつものこと。
そもそも、同じ部署っていうだけの後輩の櫂君と、いつでも何処でも一緒にいる必要なんてないんだよね。
私は、私で。
櫂君は、櫂君よ。
せっかくこんなにおしゃれしてきたのに、怒った顔してたら台無しだよね。
上手にセットできたウエーブに、翔君がくれたクリスマスのネイルチップ。
スーツも新しいし、ヒールだってそうだ。
高いヒールは慣れていなくて結構歩きにくいけれど、気に入ったデザインの物を買うことができたから満足している。
だけど、こんなにおしゃれしたって、ここには望月さんが居ないのよね。
「残念」
口に出してしまうと、なんだかよく解らないけれど、余計に変な溜息が漏れてしまう。
今何時だろう?
腕時計に目をやると、二一時になろうとしていた。
望月さん、そろそろ家に戻ってる頃かな?
あ、またストーカー的なことを考えてしまった。
いやいや、これは恋する乙女のごく普通の考えだよね?
手にしていたグラスのお酒をグビグヒと喉に流し込み、炭酸にぎゅうっと顔をしかめる。
アルコールで、胃の辺りがまた少しだけ熱くなった。
それにしても、やっぱりちょっと寒すぎる。
寒さにグラスを持ったまま自分の肩を抱き、その場に座り込んだ。
ベランダから降りた先の、冬枯れしているような芝生は結構ちくちくとして、お尻が痛いというか痒い。
体育座りをして、この寒さに負けないように残りのアルコールをちびちびやっていたら、櫂君がやってきた。
「もう。菜穂子さん。探しましたよっ」
後ろから声をかけられて、背後を振り仰ぐ。
「ああ。櫂君」
「ああ、じゃないですよ。ったく。こんな寒いところで何やってるんですか」
「さあ? 何やってるんだろうね」
自分でもよく解らないよ。
櫂君とあんな言い合いなんて初めてしたし。
何をそんなにイライラしているのか、自分でもよく解らないのだ。
望月さんがここにいないせい?
こんなにおしゃれしたのに、披露する相手がいないからイライラするのかも。