桜まち
「えーっ。三一番。三一番です。どなたかビンゴの方いませんか?」
マイクで番号を告げる社長秘書の声に、櫂君が反応した。
「僕、一つ開きました。次に六番が来たらビンゴです」
「えっ。櫂君もリーチなの?」
これは負けられない。
「さー、出ました。次の番号は」
ゴクリと唾を飲み込み、社長秘書がマイクで告げる番号を待ちわびる。
四番、来い。
四番、来いっ!
私が祈るように見ていると、番号が告げられた。
「番号は、六番です。六番でビンゴの方いませんか?」
「はいっ。はい、はい。僕、ビンゴですっ!」
やたらと張り切って立ち上がり声を上げた櫂君を、私はうらめしぃ目で見るのでした。
参加賞脱却ならず……。
てか、櫂君。
去年に引き続き、運がありすぎでしょ。
「で? 一等の景品は、何?」
舞台上から一等の景品が書かれた封筒を手にして戻る櫂君へ不貞腐れたように訊くと、拗ねないで下さいよぉ、と笑いながらも内容を教えてくれた。
「えーっと。キャンプセットだそうです」
「キャンプセット? これまた、アウトドアしない人には、邪魔なだけの代物じゃないのよ」
「ですね」
櫂君が苦笑いを零す。
「でも、ワンタッチテントとランタンとテーブルに椅子もついてますよ」
ついてきますよって。
そんなの貰っても置く場所に困るから。
大体、今冬ですけど。
「じゃあ櫂君。この寒空の下、キャンプへ行ってらっしゃいな。くれぐれも凍死しないよう、気をつけてね」
同じように苦笑いで提案すると、一緒に行きましょう。なんて誘ってくる。
「えーっ、イヤだよ。寒くて死んじゃう」
「いっぱい着込んでいけば大丈夫ですよ」
「そんなわけないじゃん。絶対に死ぬって。凍死だって。こんな季節にキャンプするなんて、ただの苦行だって」
身振り手振りで大げさに断ると、櫂君がおかしそうに笑う。
「じゃあ、夏になったら行きましょう。ね」
「夏かー。だったらいいかな」
「約束ですよ」
そういって櫂君は、子供みたいに楽しみだなー。なんて笑ったのでした。
夏のキャンプかー。
まだまだ、遠いなぁ。
けど、櫂君とキャンプに行ったら、きっと楽しいだろうな。
今から夏の様子を想像して、私の心はウキウキとしていた。