桜まち
カウンターに並んで座ると、望月さんからふわり煙草の匂いが香った。
ああ、望月さんの匂いだ。
くんくん。
なんて。
それにしても、足が痛い。
カウンター下で、ヒールをこっそり脱いでみる。
ああ、楽ちん。
「ここの塩ラーメン。旨いよな」
ヒールを脱いだ足をブラブラさせていると、望月さんが塩ラーメンを注文した。
私も同じものを頼む。
「私も好きで、たまに来ますよ」
「あ、俺も結構来てるんだけど、今まで一度も逢わなかったな」
「ですね。望月さんて、うちに越してくる前はどの辺りに住んでたんですか?」
同じ最寄り駅を利用しているのだから、この近辺だったはずだよね。
「大通りを真っ直ぐ行った先にあるマンションに住んでたんだけど。古いマンションだったから、建て替えるとかでしばらく出なくちゃいけなくなって。だったら、丁度いいと思って引っ越しするのを決めたんだ」
「そうなんですか」
「で、川原さんところの物件を見つけて、直ぐに決めた。あそこ、かなり便利だし。部屋のつくりもいいからな。それに、あの桜も……。いいタイミングで入居できてラッキーだったよ」
その陰には、悪いタイミングで入居できなかった人もいますがね。
櫂君を思い、肩を竦ませる。
出てきた熱々のラーメンを早速食べると、空腹の胃に染み渡っていった。
ラーメンの温かさも身に沁みて、余りの美味しさに泣けてくる。
「あー、おいしっ」
小さく声を上げると、望月さんが笑う。
「川原さんて、いつも気取ってなくていいよね」
褒められているのかいないのか、微妙です。