桜まち
ひょいっと
―――― ひょいっと ――――
「寒い日のラーメンは、格別だったな」
マンションへ向かって歩きながら、満足そうな望月さん。
「ですね。スープの美味しさが、胃に染み渡りましたよ」
ラーメン話に花を咲かせながらも、一度カウンター下で脱いだヒールを再び履いて歩くと、痛みがさっきよりも増している気がして辛かった。
なるべく普通に歩こうとしても、つい痛みにひょこひょことした歩き方になってしまう。
すると、不意に望月さんが足を止めた。
「足。痛いのか?」
「あ、いや。大丈夫です」
顔の前で手を振った私の足元を見て、望月さんが眉根を寄せる。
「気づかなくて悪かったな。足が痛いのに、わざわざ商店街までラーメン食べに行くことなかったよな」
「そんな。望月さんが謝ることではないです。新しいヒールで浮かれすぎてしまっただけですし。私が食べたくて勝手に便乗しただけなので、気にしないで下さい」
いつものようにヘラヘラ笑うと、望月さんが私の足元にしゃがみ込んでしまった。
そうして、俺の肩に掴まってと言って、私のヒールを脱がせてしまう。
えっ!? と驚いているのも気にせず、望月さんはヒールにやられた私の足の傷を見ている。
「うわ。皮が捲れてんじゃん。よく我慢してたよ」
私は、掴まれといわれて掴まったのはいいけれど、そんな風に掴まって望月さんに触れていることが照れくさく。
更に、ヒールを脱がされて、マジマジと足を見られていることには、それ以上に恥ずかしさを感じていた。