桜まち
「だ、大丈夫ですっ。下ろしてください。ちゃんと一人で歩けますから。ホントは、足なんか痛くないんですよ。こんなのたいしたことないんです。はい。そ、それに、重いでしょ? 望月さん、つぶれちゃいますよ。あの、ホントに――――」
降ろしてもらおうと慌てて色々言っていたら、ピシャリと一言告げられた。
「いいから黙って」
「は、はい……」
どうしよう。
ドキドキするよ。
好きな人にお姫様抱っこなんて、御伽噺の世界みたい。
本当に現実?
夢なんじゃないの?
実はまだクリスマスの会場で、あのソファで転寝中なんじゃない?
一歩ごとに伝わる振動と、しっかりと抱えられた体。
望月さんの吐く白い息と暖かさ。
こうやって上着を着ていても、人のぬくもりってちゃんと伝わってくるものなんだね。
あったかいなぁ。
そして、幸せ。
夢なら覚めないで。
さっきまで昔の彼女を気にしていたくせに、私ってなんて現金なんだろう。
だけど、今だけでも夢を見させてください。