桜まち
どのくらい経ったのか。
インターホンがしつこく鳴っているのに気がついた。
「五月蝿いよぉ……」
モゴモゴと布団の中に頭まで潜り込んでから、櫂君が来ることを思い出した。
ダルイ体に鞭打ってベッドから這い出る。
パジャマのままだけど、櫂君だからいいよね。
カーディガンを上から羽織り、寝起きでぼんやりした顔のまま玄関ドアを開けて出迎えた。
「いらっしゃーい」
「……寝てたんですか……。どおりで携帯もインターホンもスルーのはずですよ」
呆れた溜息と共に、袋に入った食料を手渡される。
貰った袋の中身を覗くと、デパートの地下食料品売り場で仕入れた高級感満載のお惣菜がたくさん入っていた。
「わぁおっ」
嬉しさについ目が輝く。
「あがって、あがって」
美味しそうな惣菜たちに、現金な笑顔を浮かべて櫂君を部屋に招くと笑われてしまった。
美味しい物に目がないのが、わかりやす過ぎたんだろう。
「何時だと思ってるんですか。もう一三時過ぎてますよ」
笑っていた顔を少しだけ引き締めて、櫂君が溜息を零す。
「あ、そうなんだ」
時間をまったく気にせずにいたら、もうそんな時間なんだ。
一日か終わってしまうな。