桜まち
「だって、だるくって、何にもしたくなかったんだもん」
唇を尖らせて訴えかけると、櫂君が少し眉根を寄せる。
それからマジマジと人の顔を見始めた。
ん?
もしかして、涎のあとがついてる?
さすがにそれは乙女としてないだろう、と口元を手で拭ってみる。
「何やってるんですか」
そんな私を見て、櫂君が更に眉根を寄せた。
「いや。あんまり櫂君がガン見するから、涎のあとでもついてるのかと思って」
ヘラヘラ笑うと、また溜息を一つ零されてしまった。
それから徐に近づいてきて、おでこに手を伸ばしてきた。
「熱、ありますね。ダルイのはそのせいですよ」
「え? 熱? ホントに?」
櫂君に言われて驚いてしまった。
「自分の事なのに気がつかなかったんですか?」
体温を測ってみると、確かに熱があった。
「気づかなかったよ」
どおりで、何もする気になれないと思った。
体温計の三八度二分という数字を確認したら、なんだか急に気分が悪くなってきた。
「結構あるじゃないですか。よく今まで平気でしたね」
平気というか、ずっと寝ていただけだからね。
「けど、もう駄目。また寝る」
駄目といいながらもしっかりと買ってきてもらった惣菜の袋を抱えてベッドへ潜り込んだら、そこで食べないで下さいよ。と釘を刺された。
「だって、食べたいんだもん」
「子供ですか」
呆れながらも、苦笑いの櫂君が惣菜をお皿に並べてくれている。