桜まち
「うぅ。肩が凝る」
PC画面を睨みっぱなしでいた午前中。
仕事ははかどったけれど、肩がひどく凝ってしまった。
頭を左右に動かし、肩をとんとんと叩いて気休めをしてみる。
なんだか私、お婆ちゃんみたい。
そういえば、私が小さい頃。
縫い物をしていたお祖母ちゃんも、よくこうして肩をトントンなんてやっていたっけ。
私のために浴衣を縫ってくれていた時もあったなぁ。
小さかった私は、座るお祖母ちゃんの背に回り、肩をトントンなんて叩いてあげてたっけ。
最近、肩叩きしてあげてないなぁ。
今度行ったらやってあげよう。
それにしても、肩が痛い。
「カイロとか行こうかな」
「カイロですか?」
「整体の方がいいと思う? そもそも、カイロと整体って何が違うの?」
「さあ? 僕そういうの行ったことないんで。よく体を動かしているせいか、肩凝りには縁遠いんですよ」
「そうなの? 羨ましいね」
「あとは、若さですかね」
「喧嘩売ってる?」
キッと睨むと、顔の前で両手を開いて慌てて振っている。
そんな櫂君は、私の睨みを難なくかわし話題を変えてしまった。
「あ、そうだ。部屋、訊いて貰えました?」
そうだった、そうだった。
昨日飲んで帰ったから、お祖母ちゃんに連絡するのをすっかり忘れてた。
「ごめん。忘れてた」
「頼みますよぉ」
楽しみにしていたのか、櫂君がとっても残念そうな顔をする。
まるで遠足当日に、雨が降って中止になったときのような落ち込みかただ。
大丈夫、降り止まない雨はないのだよ、うん。
「ごめん、ごめん。今日帰ったら訊いてみるね」
「よろしくお願いします」
小さく頭を下げる櫂君を見ながら、帰りも会えないかなぁ、なんて私は一目惚れさまの顔を思い浮かべていた。