桜まち
クラクラしながらも俯き何も言わなくなってしまった櫂君のそばへより、大丈夫? と背中に手をやり声をかけてみたけど何も言わない。
胸の辺りの気持ちの悪さを抱えながら、怒っているような落ち込んでいるような櫂君の肩に手を添える。
「もしかして、櫂君も風邪ひいちゃってる? 熱があるの? 体温計ってみる?」
理由を見つけられないくてそんなことを言いながらとにかく体温計を差し出すと、その手をぎゅっと握られた。
「菜穂子さん……」
俯いていた櫂君がゆっくりと顔を上げる。
その表情は悲しげに歪んでいて。
女の子なら、ここでどっと涙が溢れ出してしまうんじゃないかってくらい瞳が揺らいでいた。
「櫂君?」
どうしちゃったの?
何でそんなに悲しい顔をしているの?
「僕は……」
何かを言おうと口を開きかけて、躊躇うように一度閉じる。
その口元を見つめながら、私は意識がぼんやりして行くのを感じていた。
どうしよう。
気が遠くなってきちゃった。
櫂君が何か大切なことを言おうとしているみたいだけど、それを聞く余裕が……ない……かも……。
櫂君に手を握られたまま、私は櫂君へ倒れかかってしまった。
「えっ?! 菜穂子さん? 菜穂子さんっ!?」