桜まち
泣けてくる
―――― 泣けてくる ――――
ぼんやりとした意識のまま瞼を持ち上げてみれば、いつのまにかベッドの上だった。
きっと櫂君が抱えて寝かせてくれたんだろう。
「かい……くん……」
熱のせいか、カサカサに渇いた喉から発した声は、余り音にならなかった。
それでも、見守るようにそばに居てくれた櫂君には届いたみたい。
「大丈夫ですか?」
櫂君が、心配そうにして私の顔を覗き込んでいる。
全然大丈夫じゃなかったけれど、話すのがつらくてとりあえず頷いておいた。
熱のせいか体中がだるくて、寝返りさえもままならなくなっている。
さっきまで、櫂君が買ってきてくれたお惣菜を食べる気満々だったはずなのに、今食べ物を目の前に差し出されたら、それだけでリバースしてしまいそうだった。
熱で喉はカラカラなのに、熱の辛さに目じりには涙がたまっていった。
「喉、渇きませんか?」
私が寝ている間に買ってきてくれたのか、櫂君がスポーツドリンクをコップに入れてくれた。
抱えられるようにして上半身を起こし、涙のたまった目元を拭うとするとおでこに冷えピタが貼り付けられているのに気がついた。
どうして櫂君は、いつもこんなに気が利くんだろう。
看病してもらっているありがたさに心の中ではとっても感謝しているのに、言葉になって出てこない。
櫂君から渡されたコップを受け取り、スポーツドリンクを飲むと、カラカラだった体と、空っぽだった胃に染み渡っていくのがよく判った。