桜まち
「ラーメンの誘いにきたんだけど。風邪じゃあ、無理だな」
「あ、いえ。大丈夫です」
「いや。無理はしないほうがいいよ」
確かに、まだ頭がフラフラしているけれど、望月さんとのラーメンなら吐き気がしたっていきたいのですよ。
そもそも、私お腹空いてるし。
「いきます。すぐに着替えますから、お家で待っててください」
すっピンなのも忘れて、思わずマスクを口元からずらして宣言してみたのだけれど。
「いいよ。無理しなくて。また誘うから。お大事に」
無常にも、そう言って望月さんは背を向けてしまった。
あ~……。
行ってしまった。
あっけなく去ってしまった望月さんにうな垂れ、泣く泣く再び櫂君のくれた惣菜選びに戻った。
「いいもーん。望月さんなら、きっとまた誘ってくれるもん。櫂君の惣菜だって美味しそうだもんねぇ」
誰もいないのにスネながら呟いて、お惣菜をレンチンした。
温められた美味しそうなお惣菜をテーブルに並べると、一緒にお酒も飲みたくなってくる。
「飲んじゃ駄目だよね……。食べたら薬飲まなきゃいけないしね。……けどぉ、ちょっとだけ」
誰に言い訳しているのか、ひとりごちてから冷蔵庫の中の冷えた缶ビールを一本取り出した。
「一本飲んじゃうのは、まずいかな?」
お酒なんてダメですよっ。と叱る櫂君の声が聞こえた気がしたけれどスルー。
グラスを用意して、三分の一ほど注いでみた。
「うーん。もう少しかな」
半分まで注いでみる。
「うん。とりあえず、半分で手を打ちましょう」