桜まち
「ねぇ、藤本君。私のPC調子が悪くって。藤本君、コンピューター関係に強かったよね。ちょっとみてもらえる?」
会社だという事もあってか、クリスマスの時よりは甘え声は控えているものの、あきらかに上目遣いな感じの佐々木さんは、櫂君に欲しい物でもおねだりでもするみたいにお願いをしに来た。
「システムの人に頼んだほうがはやいんじゃないかな?」
佐々木さんの、あからさまな櫂君へのラブラブ攻撃に気づいているのかいないのか。
櫂君は、素っ気無くそう切替した。
けれど、佐々木さんも引き下がらない。
「それがねぇ。システムの人たち今忙しくて手が空かないから、無理って言われちゃってー」
ありゃりゃ。
段々と語尾を延ばし始めちゃったよ、佐々木さん。
あからさまの二乗って感じですか。
「そうなんだ。うーん。うちの部署も年末が近くて立て込んでるからね」
櫂君は、ちょっと困った顔をしている。
そんな佐々木さんと櫂君のやり取りを黙って隣から眺めていたら、不意に彼女の射るような視線が私へ向いた。
「大丈夫ですよね、川原さん。先輩の川原さんはお仕事も早そうですし。櫂君をお借りしても問題ないですよね」
佐々木さんは、なんとなく脅迫めいた口調で眼中になかったはずの私を見てそう言い切る。
目が恐いんですけど。
櫂君を見るときの甘甘ラブラブな目つきとは打って変わって、私を見るときの佐々木さんの目は、まるで蛇のようだった。
なんか、一度狙われたら必ずやられる感じがするよ。
丸呑みしないでね。
あ、でもしっかり咀嚼されてもイヤだよね。
想像したら益々恐くなってきた。