桜まち
「いや。問題があるかどうかは、私の判断では……」
佐々木さんの恐い目つきと、余りにきっぱり言い切る物言いに、後輩相手だというのに語尾が知りきれトンボ状態になってしまった。
部長に訊いたほうがいいんじゃないかと私が口を開こうとしたら、まるでそれを遮るかのように佐々木さんが強引に言葉をかぶせてきた。
「じゃあ、そういうことで。藤本君をお借りしますね」
何の返事もしていないと言うのに勝手にそう言うと、佐々木さんは櫂君の腕を引き連れだしてしまう。
「あ、ちょっと……。行っちゃったよ」
お借りしますね、って簡単に言われてもねぇ。
レンタル用品じゃないんだからさ。
当日返却で三六〇円ですよ。
なんて。
「勝手なことして、部長に怒られても知らないからね」
連れ去られていく櫂君の背中にそう零しながら、私は深い溜息をついた。
それにしても、こっちの仕事はどうすんのさ。
「別にさ、櫂君の分のお仕事を引き受けるのは一向に構わないよ。いつもお世話になってるからね。だけどさ、何であの佐々木って子にあんな脅迫めいた感じで指示されなきゃいけないのよ」
こんなんでも、一応先輩なんだからねっ。
あぁっ、もう。
イライラするっ。
キーボードに向かってイライラを発散させながらガツガツ叩いていると、部長が通り過ぎざまに呟いていった。
「壊したら給料から天引きだぞ」
その言葉に仕方なく、キーボードへの八つ当たりはやめにした。