桜まち
何を食べようかなー。
あんまりプンプン怒ったら、お腹空いちゃったよ。
グルグルと忙しなく鳴るお腹を押さえて歩いていると、ビルを出てすぐのパスタ屋さんの窓際に座る櫂君の姿を見つけた。
「あ、櫂君。こんなところでランチしてたのね。だったら誘ってよねぇ」
櫂君を見つけて自分も中へ踏みこもうとしたけれど、直ぐに思いとどまった。
だって、櫂君の目の前には、佐々木さんがご機嫌な顔をして座っていたから。
「……なんだ。佐々木さんとランチなんだね……」
佐々木さんはメニューを櫂君の方へ向けて、なにやら楽しそうに笑顔を振りまいている。
櫂君は櫂君で、佐々木さんの開いたメニューを、身を乗り出すようにして見て、なにやら頷き返したりしていた。
仲よさそうだね……。
佐々木さんとランチに行くなら行くって、ひとこと言ってくれたらいいのに。
ランチは、ほとんどいつも櫂君と一緒に食べていたから、何も言ってくれなかったことに、少し寂しい気分になってきた。
「相棒がいないと、こんなにも寂しいお昼になるんだなぁ……」
シミジミ呟いて、近くのコンビニに入った。
一人でどこかお店に行って食べる気にはならなかったから、サンドイッチと飲み物を買って会社へ戻った。
自席についてサンドイッチを頬張っていると、部長がまた通り過ぎ際に呟いていった。
「漫才の相方がいないと、背中が寂しそうだな」
「なんですかそれ。別に寂しくないですけどっ」
そうはいってみたものの、かぶりついたサンドイッチのなんて味気ないこと。
ご飯は、誰かと一緒が美味しいんだね。
なんて、またシミジミ……。
味気ないサンドイッチをあっという間に完食して、私は午後一の会議のために、サッサと会議室へ向かった。
その時、少し先のエレベーターから櫂君と佐々木さんが出てくるのが見えたけれど、私は気づかないふりで会議室のドアを開け中に入った。
胸の中のイライラがよくわからないモヤモヤに変わっていて、会議中、私は溜息ばかりをついていた。