桜まち
「川原って、マジで綺麗になったよな。俺さ、いい女は放っておけないタイプなんだよね。川原もさ、営業の俺と付き合ったら、鼻が高いとか思わない?」
「別に、そういうのに興味ないから」
回している腕から逃れると、プライドを傷つけられたのか佐藤君がちょっと怒った顔つきになってきた。
「なんだよ。あ、川原って、まさかあの隣にいる後輩。えーっと、なんだっけ? 藤本だっけ? あいつのことが好きなのか?」
まさかな。と佐藤君は、イタズラに笑っている。
「なに、それ?」
私も思わず笑ってしまう。
なのに、何故だか顔は引き攣っていた。
確かに、櫂君はモテモテ君だけれど、だからって私が好きって。
笑わずにいられないはずなんだけれど、頬の引き攣りをうまくなおせない。
「と、とにかく。気持ちは嬉しいけれど、ごめんね」
頭を下げると、つまんねーの。といって佐藤君は会議室を出て行ってしまった。
つまらないって……。
私は、佐藤君の暇つぶしですか?
なんか、もう。
よくわからないけど、また胸の辺りが変な感じになってきた。
佐々木さんのせいなのか。
佐藤君のせいなのか。
どちらにしろ、心のおさまりが酷く悪い。
部署に戻ると、朝佐々木さんに連れ去られたっきりだった櫂君が帰り支度をしていた。
「あ、菜穂子さん。会議お疲れ様でした」
「櫂君も。佐々木さんのお相手お疲れ様」
「なんか、嫌味臭く聞こえるのは気のせいですか?」
「……気のせいじゃない?」
けど、実際は自分でもちょっと感じの悪い言い方だった気がした。
だけど、どうにも自分の感情がよく解らないし、制御もできない。
大体、佐藤君がまた変な告白なんかしてくるから、余計におかしな気分になってしまったんだ。
もう、今日はとっとと帰って、家でお酒に溺れよう。
きっと浴びるほど飲んだら、すっきりするような気がする。