桜まち
自棄酒
―――― 自棄酒 ――――
アルコールを浴びるほど飲むためには、ビールは不向きだった。
だって、缶ビールってば重いから何缶も持って歩けないでしょ。
こんな時櫂君が居たら、たくさん買ってもひょいっと軽々持ってくれるんだろうな。
いや、駄目だよ。
そもそも、櫂君が佐々木さんに連れて行かれたから忙しくなっちゃって大変だったし。
なんだか胸の辺りだってモヤモヤするし。
佐藤君までまた出現して、酔っ払ってもいないのに告白なんかされちゃうし。
そのせいで自棄酒なんだから、櫂君が居たらなんてのはおかしいよね。
仕方ないので、駅前にある酒屋さんで日本酒とワイン、どちらにしようかと何度も交互に見ながら、美味しそうなワインを四本買ってみた。
ビールよりも度数の高いアルコールを飲みまくって、酒に溺れてやるのだ。
ついでにスーパーへも寄り道して、美味しそうなチーズや生ハムも買ってみた。
「ワインも、さすがに四本持つと重いなぁ」
自棄酒、自棄酒。
鼻歌交じりにそう呟きながマンションのエントランスでエレベーターを待っていると、後ろから声をかけられた。
「川原さん」
振り向くと、会社帰りなのか、スーツ姿の望月さんが立っていた。
「あ、こんにちは」
頭を下げると、重そうだね。といってワインの袋を持ってくれた。
「パーティーでもあるの?」
「え?」
「いや。ワインなんて、四本も買ってるから」
「あ、いえ。一人で飲むんです」
「え? ああ、買い置き?」
「いえ。自棄酒です」
「……なんかあった?」
四本全部飲むのかよ。
とちょっと怯んだような表情の望月さんに訊かれて、口ごもってしまった。
なんて、応えたらいいのか解らなかったんだ。
二人でエレベーターに乗り込んで三階に着くと、部屋の前で望月さんが持ってくれていたワインを少し持ち上げた。
「自棄酒。付き合うよ」